劇場だより



劇場だより その7



ブレーマーハーフェン 志賀 トニオ氏

8月は劇場にとってシーズン始まり。公演は9月からですが、稽古はその3週間程前から始まります。 私の劇場便りも早いもので2年目を迎えました。

今回は日独協会の会報という原点に立ち返り、音楽業界から見えてくる日独の違いを テーマにしたいと思います。私は毎晩ネットで日本の新聞を読むのが習慣ですが、 今日”日米野球文化の違い。男の本能、報復は必要な事?”という記事がありました。 投手が打者の頭にボールをぶつけて乱闘になり、その乱闘に加わるか、止めに入るか。 「目には目を」の文化がある米国では前者が良しとされ、後者は裏切り者になる。 仲間がやられたんだから、やり返さないとはどういう事か!となるわけである。 ドイツだったらどうだろうかと考えてみたが、おそらく米国と同じではないだろうか。 正義と和を重んじ、後者を良しとする日本はむしろ世界的に稀有な文化なのではないか。 話は飛びますが、出入りの激しい劇場の現場では、シーズン始まりに多くのニューフェイスが登場します。 今年も20人余りが新加入しました。第1カペルマイスターはユダヤ人から、ギリシャ人に。 合唱指揮者はロシア人からキューバ人に代わりました。 他にもコレペティトーアに韓国人、合唱団にアメリカ人、ソロ歌手にインド人等々、 これ程国際的な職場はドイツでもなかなかないのでは。 旧西ドイツの町はどこに行っても人種のるつぼですが、旧東ドイツの町では 8〜9割ドイツ人で、劇場だけが別世界なのが不思議でした。

そして国際的という事はそれだけ文化の違いも存在する事になります。 ここで先ほどの話に戻ると、正義と和を重んじる文化というのは、ここではなかなか通じない という難しさがあります。日本でオーケストラと対峙した時、奏者達は、ほぼ99%日本人です。 ですから共通の文化を土台とする事ができますが、ドイツではドイツ人30〜50%程度。 他は外国人ですから、それらの人達をも納得させる説得力が指揮者には求められる事になります。 日本で生まれ育った私にはドイツに来た当初その力がなく苦労しました。

最初の試練はRostockの音大時代にオーケストラを結成した時でした。 日本の桐朋学園時代にオーケストラを結成して学園祭で演奏した経験があったので、 ドイツでも試みたわけですが、やはり国際色豊かな学生達相手に悪戦苦闘。

”ここで右に”と言って右に行ってくれる人は数名の心優しき日本人と比較的 まじめなドイツ人くらいで、後は説き伏せるのに四苦八苦。 それでも学生の間にその自前のオーケストラで4回演奏会を開き、 少しづつ対応の仕方を覚えていきました。 その後私が最初に就職したWeimarの劇場では合唱アシスタントとして合唱指揮者の 指導ぶりから多くを学びました。この劇場の合唱団は旧東ドイツ出身者で 50〜65歳のドイツ人が7割を占め、非常に扱いの難しい団員達を手玉にとる 技(笑)が必要でした。文句を言う隙を与えないスピーディーな稽古と言い回し。 適度に休暇を与えてガス抜きする等。そして、ドイツには”絶対に謝るな”という 文化があり、これを守る事が現場では大変重要でした。どんな事があっても自分の 非を認めず説き伏せる強さ。弱肉強食で、弱ければ食われて終わるという厳しさ。 正々堂々戦うのではなく、不意を衝いてでも勝つ為ならなんでもする執念。 これらを理解し身に付けた上で、今度は日本の良さをどのように利点としていくか。 劇場では家族のように働くので、日本の”和の精神”が重宝されます。 自己を主張するばかりで協調性のない音楽家は結局長続きしません。 そしてドイツでも有数のハードワークな職場ですから、忍耐力が不可欠です。 このようにそれぞれの文化の良さを融合していけたら良いですね。



ロストックの音大時代オーケストラで指揮する筆者



劇場だより その6



ブレーマーハーフェン 志賀 トニオ氏

ここブレーメン州の学校は6月22日から6週間の夏休み。劇場の休みは通常、学校の休みの1週間〜10日後に始まります。 というわけで、今回のお題は”お休み”。ドイツといえば言わずと知れた”お休み大国”。 我が家の本棚には”大真面目に休む国ドイツ”という本が置いてあります。

一般企業に勤めた場合、年に6週間の有給休暇があり、同僚と融通しながら任意に休暇を取ります。 一般的に子供がいる家庭では、夏に4週間、クリスマスと、イースターに一週間づつ取り、 子供がいない人はその時期を避けて取ります。劇場の場合クリスマスとイースターは仕事があるので、 夏にまとめて6週間お休みとなります。なかには好きな時に休めない事に不平を言う人もいますが、 私の場合、父がドイツ人である母と結婚した後、35年間一度も4日以上の休みがなく、 休暇でドイツに行く事が出来ませんでした。今は多少環境が改善したとはいえ、 日本では未だに1週間以上の休みを取る事は困難です。 ですから、休みに対して不平を言うドイツ人を見ると、腹立たしい気持ちになってしまいます。

さて、劇場ではその他に様々な”お休み”の規則があります。 我々コレペティトーアの通常の勤務時間は10時〜14時と18時〜22時です。

午前と午後、それぞれ4時間の勤務中に必ず20分の休憩が入る事が義務付けられています。 それから、4時間を超えて働いてはならず、午前と午後の間には4時間の休憩が入らなければなりません。 しかし、劇場の仕事の性質上、当然 ”通常”ではない状況が起こりますから、 その場合は残業手当が支給されます。コレペティトーアが残業手当をもらう最も頻繁なケースは歌手の オーディションの時です。劇場ではシーズンを通して、新しい専属歌手及びゲスト歌手のオーディションが行われます。 このオーディションは通常14時に始まります。これは遠方から受けにくる人に配慮しているためです。

ここブレーマーハーフェンのような小さな劇場でも、オーディションとなるとオーストリアやスイス、 ドイツ全国から受けにきます。昨年”さまよえるオランダ人”のゼンタ役のオーディションでは20人を 超える歌手たちが一日に押し寄せ、時間が足りないとの理由で通常は2曲のアリアを歌う機会が与えられますが、 今回はゼンタのアリア1曲だけに絞られ、さらに残り7人になった所で、時間節約のためアリアの中間部分を カットするよう音楽監督から指示が出ました。これには歌手達もぷんぷん。ただでさえゼンタを歌いに来る 歌手たちは大きい劇場でも歌っている実力派揃いでプライドもあります。そして、遠くはるばる交通費と ホテル代をかけて来たのにこの扱いは何たる事か!と。私は12時前に歌手との打ち合わせ稽古を始め、 終わったのが17時半ですから、もちろん残業手当が出ます。これはちょっと特殊な例ですが、 通常の10数人程度のオーディションでも14時に始まると、終わるのが16時頃。 通常の勤務時間である18時からは平行して立ち稽古がある事が多いですから、 必然的にオーディションがある都度上記の、4時間の休憩の規則にひっかかり、残業手当が出ます。

オーケストラの通常の勤務時間は9時半〜12時と17時〜19時半で休憩20分。 ここの劇場ではオーケストラに子持ちの家族が多いため、他の劇場より勤務時間が早めになっています。 ここで問題になりやすいのが午後の17時始まり。我々コレペティトーアはオーケストラの中で演奏する 仕事もありますから、午前の立ち稽古で14時まで働き、午後17時からオケの練習に参加すると、 また上記の規則にひっかかります。

バレエの通常の勤務時間は10時〜13時と15時〜17時。バレエはスポーツ、という観点から間に休みを入れずに夜に長い休みを入れたほうが好ましいとの事。 バレエはオペラやミュージカルにも参加するので、その場合我々コレペティトーアは午前の立ち稽古に14時まで参加した後、 15時からバレエの振付の稽古に参加するケースもあり、また規則にひっかかります。

劇場の合唱団には特に多くの規則があります。ここですべての規則を列挙する事はできませんが、例えば立ち稽古では3時間15分まで、 休憩は1時間45分までに20分取る事になっています。演出家は合唱団と稽古をする時には常にこの規則を念頭に周到に段取りを決めないといけません。 そして3時間15分の時間になり、合唱団が去って行った後に、ソリストと稽古を続ける事になります。 これらの規則は日本で育った私には到底想像する事が出来ませんでしたが、その環境の中で仕事をしてみると、 人間的に心身ともに健康であることが、働くための大前提となっていると感じます。


   

劇場から100mの海岸で4人のお嬢さんと(左) 自転車で劇場へ通う道筋の風景(右)



劇場だより その5



ブレーマーハーフェン 志賀 トニオ氏

私がお届けする劇場便り、早くも記念?の5回目となりました。 今回はやや玄人的なテーマ“演目”についてです。1年間のシーズン中に上演される演目は、その劇場の価値や様々な事情を表す鏡のような存在です。 さっそくブレーマーハーフェンの今シーズンのオペラ部門の演目を見ていきましょう。 ドラキュラ(ミュージカル)、さまよえるオランダ人/ワーグナー、こうもり/シュトラウス、ビーダーマンと放火犯(ドイツ初演の現代曲)、 Lend me a tenor(オペレッタ風ミュージカル)、仮面舞踏会/ヴェルディ、ヴァネッサ/バーバー(20世紀に書かれた現代曲)。 この7曲の中で皆様がご存じな曲は何曲あったでしょうか?特に有名なのは、さまよえるオランダ人とこうもり。 少しクラシックに精通した方ならヴェルディの名曲、仮面舞踏会。ドラキュラはもちろん話としてはご存知かと思いますが、 そのミュージカルとなるとどうでしょうか。そして他の3曲はプロの我々でもまず知らないマイナーな曲です。 つまり、上記最初の4曲はある程度客が入る事を計算出来る安全パイ。後の3曲は採算を度外視した冒険曲なのです。 特にここの劇場では、今の支配人が来てから毎年2曲の現代曲を上演するのが伝統になっています。 毎シーズン、その2曲は客足が悪く、なのにどうしてその伝統を守ろうとしているのか私も疑問に思っていました。 1昨年の事ですが、ヴッパータールの劇場で某日本人の方がドイツの歴史上初めて総支配人になり、 シーズンの演目に有名曲だけを並べた事をメディアに痛烈に非難されていました。こんなに斬新さに欠けるつまらない演目はありえないと。 ブレーマーハーフェンの劇場は今シーズンと昨シーズン2年続けて、それぞれ別の団体から、 そのシーズンの最も優れた劇場の一つとして賞を頂きました。そしてそこで評価されたのが、上演レベルの高さと、”上演演目の斬新さ”だったのです。 つまり、斬新な演目を並べる事によって、田舎町の小さな劇場であるブレーマーハーフェンがメディアから注目を集め、存在価値を高めていたのです。 しかし、そのような冒険はあくまで財政的余裕がなければできません。劇場が公共の施設として大部分が税金で賄われているおかげと言えるでしょう。

その財政事情もドイツ国内で州によって様々で、特に旧東ドイツの幾つかの劇場は、どうしても採算重視で有名曲に偏った演目に なってしまっている事を付け加えておきましょう。

さて、ではその演目が我々の仕事の現場にどのような影響を及ぼすか見ていきましょう。

ここの劇場では現代曲のための高いソルフェージュ能力、それからミュージカルのためのジャズやポップスの知識や感性が要求されます。 特に歌手は加えてドイツ語力、演技力、ミュージカルでは踊り、タップダンス、英語力、ミュージカル用の歌唱法等、様々な能力が要求されます。 その一方でワーグナーまで歌うわけですから、かなりマルチな能力とタフさが必要です。

それに対してミュンヘンやベルリンのような大きい劇場では仕事内容が異なってきます。全体として言えるのは規模が大きい分、 役割分担がはっきりしています。 例えば、ドイツ語ができなくても、イタリア語ができればイタリア物専門、ワーグナー等の大物専門、現代曲専門等。 そしてブレーマーハーフェンとの大きな違いは再演演目の多さです。劇場によってはプレミエが5曲程度で、あとは再演が10曲程度だったりします。 ちなみにミュンヘンでは何十年も前の魔笛やばらの騎士の舞台演出を今でも上演していて、その有名な舞台を見たいがために観客が訪れます。 ミュンヘンでは例年プレミエが8曲前後、再演が10数曲ありますから、ざっとオペラだけで20曲上演しています。 再演の曲は短い練習時間しか取りませんからコレペティトーアとしては、すでにキャリアをある程度積んでこれらの曲を レパートリーとして持っていなければなりません。 歌手も同様で、すでにその曲を何度も歌った事がないと参加する事はできません。オーケストラもあの難曲のばらの騎士をほぼ暗譜で弾いて いますから。



「ドラキュラ」の舞台



劇場だより その4

ブレーマーハーフェン歌劇場 志賀 トニオ氏

今回のテーマは”風邪”。冬といえば毎年流行する風邪は劇場にとって最も厄介な物の一つ。 今冬もこれまでに多くの音楽家が病気になり、当人も、残された同僚も修羅場になりました。


例えば1月8日のさまよえるオランダ人の公演。 前日に主役のオランダ人が風邪で出演できないとの事。 ここで最初に重要な任務を担うのがKünstlerisches Betriebs Büro 通称KBBと呼ばれる部署です。 ドイツ中で、今シーズンさまよえるオランダ人を上演している劇場を洗い出し、オランダ人役の歌手と 出演交渉を行います。オランダ人クラスの役だと大きい劇場に依頼する事になり、ギャラも 高くなるのでKBBの腕の見せ所。ここで首尾よく交渉がまとまると、次は我々の仕事になる。 業界用語で、このように病欠で急遽出演する歌手の事をEinspringerというが、 公演当日朝一で出立したEinspringerはお昼頃に劇場に到着し、コレペティトーアと 指揮者、そして演出助手の立ち合いのもと、さっそく音楽稽古と立ち稽古の確認をする 事になる。例えば音楽面で、アリアの最初の部分のテンポを速めにしたいとか、 演技面で、ここでは相方のゼンタ(ヒロイン)が手を差し出した瞬間に、 その手を握って等、
細かい指示が出される。ここで相方が稽古に参加できればいいのだが、様々な都合により 参加できない事も多く、その場合ぶっつけ本番になる。 確認作業の時には相方役を誰かが歌い、演じなければならないので、指揮者がいる時には 彼がその役を歌い、いなければ(これもよくある。)コレペティトーアが弾き歌い、 演技は演出助手が行う。そして本番、皆いつもと違う歌と動きに合わせ、助け合いながら 進行していく。このEinspringerとの公演はまさにアドヴェンチャー(笑)不思議と名演になる事も多いが、 運が悪いとまったく指揮に合わせられなかったり、演技が出来ない歌手が登場し、ドタバタ劇となる。 通のお客さんは同じ演目に何度も足を運びこういう面も楽しむ。

上記で紹介したさまよえるオランダ人はしかし、Einspringerにとっては易しい演目。 なぜならばほぼどこの劇場も同じ音楽とテキストを使用しているからです。 それに対して難しいのは、ミュージカル、オペレッタそしてレチタティーヴォ付きオペラ (モーツァルト、ロッシーニ等)。劇場によって、音楽とテキストをカット変更したり、 場合によっては曲順も変更されたりするからです。数シーズン前にロッシーニの セヴィリアの理髪師を上演し、バジリオ役のEinspringerがHannoverからやってきました。 大変レベルが高く経験のある歌手でしたが、本番中レチタティーヴォで予定されていた部分を歌わずに 別の所にとんでしまいました。つまり彼がいつも歌っているカットをしてしまったのです。 体に染みついているものですから、1日の稽古で別のカットを練習しても本番の極限状態の中で、 ついいつもの物が出てしまったのです。私はチェンバロを弾いていたので、彼がどこにとんだのか、 瞬時に察知して伴奏をしなければなりません。他の歌手も彼のセリフに応じなければなりません。 幸運にも皆彼と一緒に”とぶ”事が出来、事なきを得ましたが、その瞬間の事は一生忘れることはないでしょう。

さて、ここまでは歌手の病欠にまつわるすったもんだを紹介しましたが、 ここで少しオーケストラ奏者の病欠にも触れることにしましょう。 オーケストラ奏者が病欠した場合にはOrchestergeschäftsführer と呼ばれる担当者がBremerhaven近郊 (交通機関で2時間圏内)の劇場(Bremen, Oldenburg, Osnabruck, Hannover, Hildesheim, Luneburg, Hamburg) かフリーランスの演奏家に出演を依頼します。オーケストラ奏者の場合事前の稽古はないので、 当日ぶっつけ本番となります。ですからオペラ指揮者が指揮台に上がって最初にする 仕事は実はどこに今日は新しい顔があるか確認する事なのです。そして新しい顔があれば、 そこに多めに合図を出す必要があります

最後に、病欠が起きた場合、現場にとっては大変な仕事になりますが、 Einspringerにとっては、自分をアピールするチャンスでもあるのです。 オーディションではせいぜい聞いてもらえるのは10分程度。 でもEinspringerとしては1曲丸ごと聞いてもらえるのですから。



写真は文中に出てくるオペラ「さまよえるオランダ人」の舞台(筆者提供)


劇場だより その3

ブレーマーハーフェン歌劇場 志賀 トニオ氏


クリスマスマーケットへリンデさんと一緒に

12月はシーズン中1番の書き入れ時。年始のニューイヤーコンサートまで、本番が目白押し。 演劇部門では第1アドヴェントからクリスマスまでの間に子供向けの演目がほぼ毎日上演されます。 毎年違う演目を取り上げるのですが、必ずどこの劇場でもこの時期に行われ、 伝統的に "Weihnachtsmärchen" と呼ばれています。 シーズン初めに聴衆は今年のWeihnachtsmärchenは何だろうと注目している公演です。

今回は Ronja Räubertochter という盗賊の娘のお話。 そしてもう一つ皆が注目するのが、今年のクリスマスのオペラ公演。 毎年12月25日にオペラのプレミエがあるのが伝統で、この日だけはどんな曲が上演されても早々に売り切れになってしまいます。 今回は皆さんご存知の”こうもり”!私は当然このこうもりの稽古を毎日しているわけですが、 合間を縫って現在ドイツ訪問中の母と長女と3人で上記の演劇公演を見に行ってきました。 劇場で働いていると自分が関わっている曲は1枚タダ券をもらえ、それ以外は1枚3Euroで公演を見る事ができます。 チケット*には往復のバス代が含まれているのがドイツならでは。 いざ本番、客席は家族連れで賑わい、舞台はミュージカル仕立て、歌あり踊りありで十分楽しめる内容でした。 公演後には劇場前広場でクリスマスマーケットに繰り出すというゴールデンコース。


*チケット

さて、ここからは少し私の家族のお話しを。 私は日本人の妻と4人の娘(5歳、3歳の双子、1歳)の6人家族。 10代の頃から将来子沢山な大家族を持つ事を密かに夢見ていましたが、 音楽家になる事を決心した時に一度その夢を諦めました。 しかし、ドイツで仕事を始め、一人目の子供が生まれ、ドイツでの福祉制度を知れば知る程、 家族に手厚い社会であるのが分かり、一度諦めた夢を実現する事ができました。 ドイツでは制度上、子供を持てば持つほど、恩恵を得られるようになっている事。 そして、大学まで学費がほぼ無料で教育を受ける権利がある事が決定的でした。 それから、ドイツという国は国際的で外国人が住みやすい。 なかでもここブレーマーハーフェンは港町という土地柄、そして町が出来てまだ170年で、 長く米軍が駐留していた歴史からも、特に外国人が住みやすく、オープンな町のように感じます。 それに対して、以前それぞれ2年づつ住んでいた旧東ドイツの町、ロストックとワイマールは外国人の割合が低く閉鎖的でした。 よりドイツ的という利点もありますから、観光で行くならむしろ旧東ドイツの方が魅力的と感じる事もありますが、 家族と共に住むには色々な条件を満たさなければなりません。

ドイツの劇場で働く人の悩ましい問題はその労働時間です。 10〜14時、18〜22時が基本的な労働時間ですから、一日2往復しなければなりません。 劇場は町のど真ん中にありますから、必然的に住む場所も町の中心部になります。 そうなると家族向けの物件がなかなか見つかりません。私も2年間毎日不動産情報をチェックし、 ようやく今の物件を見つけました。

しかし、ドイツという国は家族を持つ音楽家にとっては大変住みやすく、感謝する事を忘れずに過ごしています。



4人のお嬢さん




劇場便りその2

志賀 トニオ氏

ブレーマーハーフェン歌劇場


先日10月15日にバレエ"コッペリア"のプレミエがありました。私が初めてMusikalischer Leiter(音楽監督)を任されました。 今回はその事の意味を、ドイツでの指揮者の伝統の紹介と共に解説したいと思います。

ドイツで指揮者になるにはコレペティトア兼指揮者という立場で仕事を始め、一段一段階段を登っていかなければなりません。 指揮者!として最初に任される仕事は舞台袖の指揮です。例えばオペラ”ラ・ボエーム”では2幕の終盤でトランペット、 ピッコロ、小太鼓を、オーケストラピットの音楽監督の指揮を横目で見ながら舞台袖で指揮し始め、そのまま彼等を導きながら 舞台を横切る場面があります。この場面は指揮の経験の浅い若者にとっては十分な難所となります。

次に与えられるのがミュージカルの指揮。ミュージカルで難しいのは、場面転換が多い事。舞台が回転するタイミングを見て、 音楽を始めたり、セリフを聞きながら、音楽を止めたりしなければなりません。つまり、ここで求められるのは、 音楽の内容以前に、段取りをいかに確実につける事ができるか。新人指揮者はまずここまでの階段を登りきれるかが大事です。

これを登りきれば次はオペレッタです。これはミュージカル同様、場面転換が多い上に、音楽的にテンポの変化も多く、 曲によってはオペラ作品よりも指揮をするのが厄介です。

そしてその次に、バレエ作品。ここで重要なのは毎回ほぼ同じテンポで指揮をする事。言ってみればテンポ感が試されます。 バレエダンサーはオーケストラの音を聞きながら踊りますから、毎回違うテンポになってしまっては踊る事ができなくなってしまいます。 私の場合先シーズンまでにここまでの工程を達成しました。

次に与えられる仕事は、オペラもしくは、自分の持ち曲です。私の場合、後者の持ち曲としてバレエ作品をもらったわけです。 しかし、ここには特別の事情がありました。通常は初めてもらう持ち曲では、オーケストラの編成が小さく、演奏時間も短めの ものを与えられます。“コッペリア”は大編成のオーケストラで曲も壮大、伝統的には私のような立場ではもらう事の出来ない作品です。 この曲は本来第1カペルマイスターが振る予定だったのです。

しかし、8月から来る予定だった新しい第1カペルマイスターが契約を破棄してその席が空席になったのです。 つまり、運と実力が重なっての大抜擢だったといって良いでしょう。幸い、オーケストラ、バレエ団、観客、 そして新聞の批評も大変好評で、大成功だったと言って差し支えないでしょう。この業界は一度失敗すると、 やり直す事が難しいですから、ほっとしたというのが本音です。”コッペリア”は8公演ありますから、 その間にまた多くの経験を積む事ができるのもドイツならではですね。 詳細はこちらを参照下さい



  


今回上演のコッペリアの舞台写真(筆者提供)



劇場便りその1


志賀 トニオ氏

ブレーマーハーフェン歌劇場
コレペティトーア兼指揮者


ドイツは秋が年度始まり。私の仕事場、ブレーマーハーフェンの劇場も9月3日のガラコンサートで いよいよシーズンのスタートです。このガラコンサートでは、オペラ、バレエ、演劇、若者劇場のそれぞれの部門により、 今シーズンの見どころが紹介されます。演目はもちろんですが、人の出入りの多い業界、新顔を見る絶好の機会。 もちろん新顔にとっては、まず自分の実力を見せる最初の場です。 ドイツはここぞという所で実力を発揮する事を重視するお国柄。この最初での印象が、その後の人生を決定します。

後日にはTheaterfest 劇場祭りがあります。通称 Tag der offenen Tuer と呼ばれ、近年劇場を身近に感じてもらえる催しとして ドイツ中で行われています。 この日は無料で劇場が開放され、劇場の様々な所でコンサートやイベントを楽しめます。 例えば、稽古場1で、室内楽、稽古場2でバレエ、稽古場3で演劇、メイク部屋で子供が顔にペイント、 裁縫部屋では縫物、大道具で床に絵を描く等々。 舞台袖はカフェになり、メインのプログラムではオーケストラの演奏。 ここでは通常前日のガラコンサートを短縮した30分程度のミニコンサートが行われる。 基本的に劇場のすべてが解放されるので、迷路のような建物を散策するだけでも楽しい。 我々は劇場のあちこちで仕事をしないといけないので大変だが、私は子供が4人いるので、 劇場側の配慮で出番を少なくしてもらい、子供達と散策三昧。こういう所はやはり家族を大事にするドイツならでは。


ブレーマーハーフェン歌劇場(著者撮影)



この2日間が終わった後に、オペラ、バレエ、演劇のそれぞれの部門のプレミエとシンフォニーコンサート (今シーズンは例外的にガラの前に一回目のシンフォニーコンサート)が行われる。 今シーズンの新演目数は、オペラ部門7、バレエ3(少ないように見えるが、 バレエはオペラ部門にも参加している)、演劇10、若者劇場8。 シンフォニーコンサート8、室内楽4、ファミリーコンサート3。 オペラ部門では、ここの劇場では伝統的にミュージカル1、オペレッタ1、オペラ5の演目を上演し、 オペラ5の内訳はイタリア物が必ず1曲、現代曲が2曲入る。

詳細はHomepage参照


ブレーマーハーフェン中心部を望む






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