劇場だより その3

ブレーマーハーフェン歌劇場 志賀 トニオ氏


クリスマスマーケットへリンデさんと一緒に

12月はシーズン中1番の書き入れ時。年始のニューイヤーコンサートまで、本番が目白押し。 演劇部門では第1アドヴェントからクリスマスまでの間に子供向けの演目がほぼ毎日上演されます。 毎年違う演目を取り上げるのですが、必ずどこの劇場でもこの時期に行われ、 伝統的に "Weihnachtsmärchen" と呼ばれています。 シーズン初めに聴衆は今年のWeihnachtsmärchenは何だろうと注目している公演です。

今回は Ronja Räubertochter という盗賊の娘のお話。 そしてもう一つ皆が注目するのが、今年のクリスマスのオペラ公演。 毎年12月25日にオペラのプレミエがあるのが伝統で、この日だけはどんな曲が上演されても早々に売り切れになってしまいます。 今回は皆さんご存知の”こうもり”!私は当然このこうもりの稽古を毎日しているわけですが、 合間を縫って現在ドイツ訪問中の母と長女と3人で上記の演劇公演を見に行ってきました。 劇場で働いていると自分が関わっている曲は1枚タダ券をもらえ、それ以外は1枚3Euroで公演を見る事ができます。 チケット*には往復のバス代が含まれているのがドイツならでは。 いざ本番、客席は家族連れで賑わい、舞台はミュージカル仕立て、歌あり踊りありで十分楽しめる内容でした。 公演後には劇場前広場でクリスマスマーケットに繰り出すというゴールデンコース。


*チケット

さて、ここからは少し私の家族のお話しを。 私は日本人の妻と4人の娘(5歳、3歳の双子、1歳)の6人家族。 10代の頃から将来子沢山な大家族を持つ事を密かに夢見ていましたが、 音楽家になる事を決心した時に一度その夢を諦めました。 しかし、ドイツで仕事を始め、一人目の子供が生まれ、ドイツでの福祉制度を知れば知る程、 家族に手厚い社会であるのが分かり、一度諦めた夢を実現する事ができました。 ドイツでは制度上、子供を持てば持つほど、恩恵を得られるようになっている事。 そして、大学まで学費がほぼ無料で教育を受ける権利がある事が決定的でした。 それから、ドイツという国は国際的で外国人が住みやすい。 なかでもここブレーマーハーフェンは港町という土地柄、そして町が出来てまだ170年で、 長く米軍が駐留していた歴史からも、特に外国人が住みやすく、オープンな町のように感じます。 それに対して、以前それぞれ2年づつ住んでいた旧東ドイツの町、ロストックとワイマールは外国人の割合が低く閉鎖的でした。 よりドイツ的という利点もありますから、観光で行くならむしろ旧東ドイツの方が魅力的と感じる事もありますが、 家族と共に住むには色々な条件を満たさなければなりません。

ドイツの劇場で働く人の悩ましい問題はその労働時間です。 10〜14時、18〜22時が基本的な労働時間ですから、一日2往復しなければなりません。 劇場は町のど真ん中にありますから、必然的に住む場所も町の中心部になります。 そうなると家族向けの物件がなかなか見つかりません。私も2年間毎日不動産情報をチェックし、 ようやく今の物件を見つけました。

しかし、ドイツという国は家族を持つ音楽家にとっては大変住みやすく、感謝する事を忘れずに過ごしています。



4人のお嬢さん




劇場便りその2

志賀 トニオ氏

ブレーマーハーフェン歌劇場


先日10月15日にバレエ"コッペリア"のプレミエがありました。私が初めてMusikalischer Leiter(音楽監督)を任されました。 今回はその事の意味を、ドイツでの指揮者の伝統の紹介と共に解説したいと思います。

ドイツで指揮者になるにはコレペティトア兼指揮者という立場で仕事を始め、一段一段階段を登っていかなければなりません。 指揮者!として最初に任される仕事は舞台袖の指揮です。例えばオペラ”ラ・ボエーム”では2幕の終盤でトランペット、 ピッコロ、小太鼓を、オーケストラピットの音楽監督の指揮を横目で見ながら舞台袖で指揮し始め、そのまま彼等を導きながら 舞台を横切る場面があります。この場面は指揮の経験の浅い若者にとっては十分な難所となります。

次に与えられるのがミュージカルの指揮。ミュージカルで難しいのは、場面転換が多い事。舞台が回転するタイミングを見て、 音楽を始めたり、セリフを聞きながら、音楽を止めたりしなければなりません。つまり、ここで求められるのは、 音楽の内容以前に、段取りをいかに確実につける事ができるか。新人指揮者はまずここまでの階段を登りきれるかが大事です。

これを登りきれば次はオペレッタです。これはミュージカル同様、場面転換が多い上に、音楽的にテンポの変化も多く、 曲によってはオペラ作品よりも指揮をするのが厄介です。

そしてその次に、バレエ作品。ここで重要なのは毎回ほぼ同じテンポで指揮をする事。言ってみればテンポ感が試されます。 バレエダンサーはオーケストラの音を聞きながら踊りますから、毎回違うテンポになってしまっては踊る事ができなくなってしまいます。 私の場合先シーズンまでにここまでの工程を達成しました。

次に与えられる仕事は、オペラもしくは、自分の持ち曲です。私の場合、後者の持ち曲としてバレエ作品をもらったわけです。 しかし、ここには特別の事情がありました。通常は初めてもらう持ち曲では、オーケストラの編成が小さく、演奏時間も短めの ものを与えられます。“コッペリア”は大編成のオーケストラで曲も壮大、伝統的には私のような立場ではもらう事の出来ない作品です。 この曲は本来第1カペルマイスターが振る予定だったのです。

しかし、8月から来る予定だった新しい第1カペルマイスターが契約を破棄してその席が空席になったのです。 つまり、運と実力が重なっての大抜擢だったといって良いでしょう。幸い、オーケストラ、バレエ団、観客、 そして新聞の批評も大変好評で、大成功だったと言って差し支えないでしょう。この業界は一度失敗すると、 やり直す事が難しいですから、ほっとしたというのが本音です。”コッペリア”は8公演ありますから、 その間にまた多くの経験を積む事ができるのもドイツならではですね。 詳細はこちらを参照下さい



  


今回上演のコッペリアの舞台写真(筆者提供)




劇場便りその1


志賀 トニオ氏

ブレーマーハーフェン歌劇場
コレペティトーア兼指揮者


ドイツは秋が年度始まり。私の仕事場、ブレーマーハーフェンの劇場も9月3日のガラコンサートで いよいよシーズンのスタートです。このガラコンサートでは、オペラ、バレエ、演劇、若者劇場のそれぞれの部門により、 今シーズンの見どころが紹介されます。演目はもちろんですが、人の出入りの多い業界、新顔を見る絶好の機会。 もちろん新顔にとっては、まず自分の実力を見せる最初の場です。 ドイツはここぞという所で実力を発揮する事を重視するお国柄。この最初での印象が、その後の人生を決定します。

後日にはTheaterfest 劇場祭りがあります。通称 Tag der offenen Tuer と呼ばれ、近年劇場を身近に感じてもらえる催しとして ドイツ中で行われています。 この日は無料で劇場が開放され、劇場の様々な所でコンサートやイベントを楽しめます。 例えば、稽古場1で、室内楽、稽古場2でバレエ、稽古場3で演劇、メイク部屋で子供が顔にペイント、 裁縫部屋では縫物、大道具で床に絵を描く等々。 舞台袖はカフェになり、メインのプログラムではオーケストラの演奏。 ここでは通常前日のガラコンサートを短縮した30分程度のミニコンサートが行われる。 基本的に劇場のすべてが解放されるので、迷路のような建物を散策するだけでも楽しい。 我々は劇場のあちこちで仕事をしないといけないので大変だが、私は子供が4人いるので、 劇場側の配慮で出番を少なくしてもらい、子供達と散策三昧。こういう所はやはり家族を大事にするドイツならでは。


ブレーマーハーフェン歌劇場(著者撮影)



この2日間が終わった後に、オペラ、バレエ、演劇のそれぞれの部門のプレミエとシンフォニーコンサート (今シーズンは例外的にガラの前に一回目のシンフォニーコンサート)が行われる。 今シーズンの新演目数は、オペラ部門7、バレエ3(少ないように見えるが、 バレエはオペラ部門にも参加している)、演劇10、若者劇場8。 シンフォニーコンサート8、室内楽4、ファミリーコンサート3。 オペラ部門では、ここの劇場では伝統的にミュージカル1、オペレッタ1、オペラ5の演目を上演し、 オペラ5の内訳はイタリア物が必ず1曲、現代曲が2曲入る。

詳細はHomepage参照


ブレーマーハーフェン中心部を望む






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