片野俊雄氏の講演会「再生可能エネルギーについて」に出席して

会員 昔農英夫



片野氏


 福島原子力発電所の事故後、これまで原子力に大きく期待していた国のエネルギー基本計画の見直しが行われています。今後、エネルギー需要にどう対処してゆくのかについて関心が高まり、各方面で議論される中、6月の例会は片野俊雄氏による「再生可能エネルギーの再生」と題する講演でした。

 再生可能エネルギーの「再生」という耳慣れない表現はいったい何を意味するのかと興味深く話に聞き入った。産業革命以前、すなわち経済活動の規模が未だはるかに小さい時代には人類活動に必要なエネルギーは、ほぼ全て再生可能エネルギー資源により賄われていた。しかし、産業革命で急速に膨らんだエネルギー需要を満たすには再生可能資源に代わって石炭、石油などの化石エネルギー資源への依存に舵をきった。その後、資源枯渇や気候変動の問題が表面化し、化石資源への依存度を減らす動きはすでにあったが、講師によれば、チュニジアの民主化運動に端を発する北アフリカ・中東の政治的混乱の結果引き起こされた石油の供給不安と東日本大震災による福島原子力発電所の事故が契機となり世界中で再生可能エネルギーへ回帰する機運が一気に高まり今日に至っている。この再生可能エネルギーへの依存回帰の動きを片野氏は「再生」と表現されていると理解した。しかしながら現代は人口、産業規模ともに産業革命当時とは比べるべくもなく大きく、これに伴う膨大なエネルギー要求に再生可能エネルギーでどのように、どこまで応えてゆけるかを一緒に考えてみようというのが講演の趣旨で、まさに時宜にかなうテーマでありました。

 講演はエネルギーを、供給の安定性、経済性、供給技術の環境への適合性、安全性、持続可能性の5つの観点から俯瞰的に捉えるために準備された多岐にわたる資料スライドの説明から始まりました。使用の形では電力に着目し(1)エネルギー供給の世界と日本の現状、(2)再生可能エネルギーの必要性、(3)再生可能エネルギーの種類と特徴、(4)原子力エネルギー利用にともなう問題点などであります。特に、講師が取り組んでこられた風力発電を例にあげ、再生可能エネルギーの利点、すなわち、いったん設備を設置すれば燃料はただで得られ、しかも再生可能エネルギーの源は太陽エネルギーであって枯渇とは無縁で、環境に悪影響を与えない点が化石資源と決定的に異なると力説された。原子力については、これまで燃料製造、発電所建設、運転などエネルギー利用に目を向けて促進策がとられてきたが、核燃料廃棄物の最終処分について技術的展望が未だ不透明で、安価とされてきたコストにも廃炉費用が十分に考慮されてない等の問題を改めて指摘された。

 最後に先進各国の取り組みが紹介され、講演の趣旨である果たして日本が取るべき道は…。残念ながら2時間は紹介された広範な情報を基に議論を進めるには余りにも短すぎた。言えることは、議論を尽くして将来ビジョンを描き施策を促進することですが、エネルギー供給構造の転換には長時間を要するので、短期的には原子力を含め現実的な対応が必要。また、技術の進展を見越して、将来、選択の幅を狭めないためにも技術開発だけはしっかり継続してゆくことが肝要と思います。会報にはおよそ不釣り合いとも思える固い内容の報告に終始しましたことをご容赦いただくとして、さて皆様はいかがお考えでしょうか?


Copyright(C) 2008- 湘南日独協会 All Rights Reserved.

 

.