2月例会 講演会
Prof. Dr. Heinrich Menkhaus氏講演会
「ドイツ人法律家の見た日本国憲法」に参加して
会員 中島 敏
2017年2月26日に湘南アカデミアで、ハインリッヒ・メンクハウス教授の講演会が開催されましたので、参加させていただきました。
演題は、日本国憲法についてですが、メンクハウス教授は、「ある不思議な国の憲法」ということで、
ドイツ基本法やアメリカ合衆国憲法などと比べると日本国憲法は相当程度特異なきめ方になっている、とご指摘がありまして、
大変興味深く思いました。
メンクハウス教授
「領土」については各条規定でなく、前文で示されている。
「日本国民は・・・われらとわれらの子孫のために、・・・わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、・・・」
全土とは例えば尖閣諸島も含むものである。
「国民」については第10条。「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」
「権力」については各条規定でなく、前文で示されている。「・・・その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し・・・」
「国旗」については憲法上規定なし。国旗及び国歌に関する法律第1条により日章旗と定められている。
「国歌」については憲法上規定なし。国旗及び国歌に関する法律第2条により君が代と定められている。
「国家象徴」憲法上規定なし。此処で言う象徴とは天皇云々でなく、Wahrzeichen、標章、象徴の意味である。
「国家家紋」憲法上規定なし。事実上、七五桐となっている。しかし例えばパスポートには菊の御紋が入っているが、これは天皇家の家紋であって国家家紋ではない。
「国語・文字」憲法上規定なし。(文化庁国語審議会で模範形を提示している。)
「君主主義」憲法上明確な定めはなく、あいまいである。天皇が元首であると書いてない。
第1章天皇の各条に代表という言葉は出てこない。代表、日本の代表として扱おうということにしているだけである。
「民主主義」国民主権第15条。アメリカ合衆国から飛んできた規定である。
「中央集権主義」連邦制でないことを明示していない。地方自治第8章を認めているが制限的である。
地方公共団体は・・・法律の範囲内で条例を制定することができる。(第94条)江戸時代は各藩自治の幕藩体制であった。
「法治主義」定めが曖昧である。コネ・友・派閥で法を排除しようとする。
「社会福祉主義」曖昧だが、一応規定はある。第13条幸福追求権、第25条2項社会福祉・社会保障・公衆衛生の向上及び増進に努める国の努力義務。
「平和主義」第9条。本当はアメリカは失敗したとおもったのだろう、朝鮮戦争勃発でこの規定を認めなければよかったとおもったことだろう。
自衛隊は明らかに第9条2項違反である。直さなければならない。
「社会的市場経済制」定めが曖昧。一応28条、29条の定めがあるが、規定が足りない、不十分である。
「政教分離」第20条、第89条。国家神道の廃止の現れである。
国家と、特に神社及び神道の典礼様式とを分離することは完全には行われていない。
市が神社施設に無償で土地を貸与することにつき、最高裁判所は、違憲とする判決を出したが、
原告にはピュロスの勝利しか分け与えられなかった。
有償譲渡契約が締結され将来の不法が除去されただけであった。(配布資料44頁)
「基本権」そもそも憲法上 固有のメルクマールである基本権の他に義務も挙げられている。
勤労の義務(第27条)、子供に教育を受けさせる義務(第26条2項)、納税の義務(第30条)。
立憲主義によると義務の規定は可笑しい。基本権に関する具体的な制限が定められていない。
第12条及び第13条の規定は権利の制限を公共の福祉に見出すものであるが、広範な価値判断の余地を残すものである。
「法人又は権利能力なしの団体(任意団体)」の基本権の定めがない。
今後、AI(人工頭脳)、意識できるロボットなどに対する規制をどうしたらよいか?
この場合、賦与されるのは、人権か国民権か?
「第97条は不変不易か?」・・・基本的人権は・・・現在及び将来の国民に対し、
侵すことの出来ない永久の権利として信託されたものである。
「基本権の機能」防御権、関与権、請求権(国に対して損害賠償請求できる権利)、
客観的価値観制度(国に対してだけという考え方から企業に対しても不平等はいけないよ、
といえることでなければ可笑しい。)、法律秩序の機関の存続保証。
「法律留保と制限の秩序」第13条公共の福祉、基本権を法律で制限することは憲法違反である。
「超過禁止と比例原則」適切性、必要性、妥当性をチェックする。
「中央集権主義と二院制」 米国側は日本を連邦制にしなかったので下院とは別の議院を予定していなかった。
日本人が自ら上院を要請し、この上院(参議院)の存在を正当化した。
偶然に下院とは異なる政治的多数が上院に存在する場合(ねじれ国会)に限り、下院への有効な統制が成り立つ。
他方、下院は幾つかの事案については上院と異なる決定も行うことが出来る。
概ね以上がレクチャーの要点です。日本では日本国憲法が世界に誇れる立派な基本法(特に第9条)だと自画自賛する人が多いですが、
わが憲法がけっして完全無欠万能ではないことがよく分かりました。
御質疑・御意見のなかで、憲法リテラシー(日本人のなかにはそもそも憲法のリテラシーがないのではないかという問題)
の御指摘があったことを報告いたしておきます。 以上
会場
懇親会
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