Back Number - これまでのイベント情報



11月例会報告
「ドイツをめぐる最近の情勢」

講師 前駐独大使 中根 猛氏



会員  昔農 英夫

講演の概要

後を絶たない国際紛争、テロや難民問題など国際情勢はまさに激動の様相を呈している。 EUの中心的 国家として堅調な経済を後ろ盾に国際的発言力を増しているドイツをめぐる内外情勢について前駐独大使である中根 猛氏の 時宜を得た講演を拝聴した。講演では戦後ドイツ現代史に立脚した現状分析と、 将来課題について解説と見解が述べられた。以下、講演の概要をご紹介する。 当日会場で配布された資料を当協会のホームページからご覧いただけます。詳しい内容についてはそちらも参照願います。

※講演資料はこちらからご覧頂けます。

なお講演に先立ち、2013年の湘南日独協会創立15周年記念ドイツ旅行の際に、 提携関係にあるワイマール独日協会と一緒に現地で催された祝賀行事に遠路ベルリンからお越しいただき、 日独友好の草の根交流に祝意を寄せて下さったことが紹介されました。

1)堅調なドイツ経済

戦後復興後、独経済は東西ドイツ統合に伴う財政負担,手厚い社会保障, 労働規制等に起因する競争力低下で長く停滞に苦しんだ。 打開の端緒は前政権が着手した労働市場と社会保障制度改革で、この流れはメルケル政権に引き継がれ、 EUの通貨制度や統一市場の恩恵を受け、目下独経済は堅調に推移している。 一方、改革・規制緩和の副作用で、非正規雇用や所得格差の拡大などが最近の独政治情勢にも影響していることが指摘された。

2)政治大国化するドイツ

EU加盟南欧諸国の債務危機対応では、ドイツの求める構造改革と財政規律の強化が色濃く反映され、 この過程を通してドイツは政治的発言力を強めた。 また、欧州の安全保障や難民問題への対応でも、米トランプ政権の誕生もあり、 英国離脱後を見据えたEUのリーダーとしてますますその国際的プレゼンスを高めている。

3)メルケル政権を揺るがす難民問題

独の政治状況理解のために、小党乱立を防ぐ選挙制度や政策合意に基づく政党連立により政権が 安定的に運営されてきた歴史的経緯が紹介された。戦後ドイツでは移民や難民受入に一貫して寛容な政策がとられてきた。 しかし、近年の受入難民の急増に伴う社会への統合問題、更には外国人によるテロの頻発が引き金となり、 難民政策の転換要求が高まりや格差拡大などの不満が国民政党に代わる声の受け皿として AfD(ドイツのための選択肢)などの躍進に繋がっている。 9月の連邦議会選挙では、メルケル首相の与党が勝利したものの、 議席の大幅減少で首相の求心力が低下する一方、AfDが第3党に躍進した。 連立交渉は難航し12月末の現在も4期目の政権発足には至っていない。 ドイツの政治的動向はEU、欧州、ひいては世界の動向に大きく係ることから注視してゆく必要性を改めて指摘された。


講演を聴いて感じたこと

多極化、グローバル化する世界で、ある地域の変化が、玉突き的に他の地域に影響し、 パワーバランスや経済に変化をもたらすことは日々の報道を通じて認識させられるところです。 現実の国際関係は、天文学的な数にのぼる世界の人々の日々の営みや考え、 それらの相互作用の総計が反映された結果と捉えると、 草の根の国際交流団体の活動などはたとえ大海の一滴に過ぎずとも、 関係に影響していることは間違いありません。 我々の草の根レベルの国際理解の活動も、 ひいては問題の多い日本と近隣諸国との関係改善にもつながるかも知れないと改めて思いました。 狭くなる一方の世界の出来事に関心を持つことの大切さを思い起こさせてくれる講演会でした。


中根前大使を囲んでの懇親会風景

  




12月例会  講演会
「日本の不平等条約改正史におけるドイツの役割
 −在独日本関係史料調査の近況を踏まえて− 」

講師 五百旗頭 薫氏 東大大学院教授



会員  山口 泰彦

12月17日(日)に開催された例会では、日本政治外交史が専門の東京大学大学院法学政治学研究科の五百旗頭 薫教授にご講演いただきました。

不平等条約改正というと、中学や高校時代、試験のために年号や事件を丸暗記した記憶があるだけでしたが、 今回の講演では、条約改正に向けてドイツが重要な役割を果たしたことをはじめ、新たな視点を披露していただき、 とても興味深く、刺激的なお話をおうかがいすることができました。

まずはじめに、不平等条約の何が問題だったのか。 関税自主権の喪失、領事裁判権までは学校の教科書でも出てくるのですが、 教授が研究の過程で発見されたのが、「行政権の侵害」。 これは条約には記載されていないことで、領事は日本の行政規則に拠って裁判を行うのですが、 その行政規則を決める際にも欧米諸国の公使・領事と事前に協議しなくてはならず、交渉がまとまらないこともあった、とのことです。

続いて行政権の拡大に伴い発生する問題が、機能肥大化による領事の機能不全。

領事機能が司法や警察だけでなく、衛生や営業規制といった行政機能にまで肥大化してくると人員が不足し、 機能不全に陥るようになりました。 今まで西洋の国は非西洋の国に領事という西洋のミニチュアを植え込んでいけばよかったのですが、 それだけでは足りず、中国のような租界をつくるか、国全体を植民地化するか、あるいは条約改正をするか、 3つの選択肢のどれかをとることになりました。

「ここが世界史的な分岐点」と教授。 この機会をとらえて行政権回復要求として条約改正交渉を始めたのが日本でした。 これに対して西洋側で最初にほころびが出たのがアメリカ、ドイツといった連邦制の国でした。 その背景には「アメリカは州ごとに行政規則が異なるので、日本との事前協議の際、『これがアメリカの規則だ。』 と提示できなかったのでは。ドイツもプロイセン規則優先の原則があったが、絶対的ではなかった。」との事情があったとのことです。

「不平等条約体制の弱い環=連邦国家」という教授の仮説は、アメリカについては検証されたが、 ドイツは現在検証中、とのことでしたので、検証された暁にはぜひ湘南日独協会の講演会でお話をおうかがいしたいと思います。

一方、日本国内の状況の変化についてもお話をいただきました。概要は次のとおりです。

明治政府の最大の外交課題であった条約改正に臨んだ外務省は、当初、 寺島宗則外務卿はじめ主要ポストは薩摩出身者で占められていて、アメリカと交渉し、 協定の締結まで進みましたが、欧州諸国が賛成しなかったため白紙になり、欧州諸国を説得しなかったアメリカ政府に日本政府は失望しました。

また、1877年の西南戦争で財政がひっ迫し、 大蔵省内で財源確保のため「まずは関税引上げを急ぐべき」との声が大きくなり、 関税自主権回復を主張する寺島外務卿が更迭され、長州出身の井上馨が外務卿に就任し、 関税引上げ路線に転換しました(=条約の関税率の改正だけで済む)。これ以降、外務省は長州出身者中心になっていきます。

この現実路線転換を評価したドイツはここから日本に急接近して、日本がイギリスや欧州諸国と交渉する際に助言をするようになりました。

ここで教授は、パックスブリタニカの時代だからといってイギリスだけを見るのでなく、 二番手のアメリカ、三番手のドイツの関係を見ながら日本外交を見ていく視点が必要では、世界史を日本から見ていくことが必要では、とお話されました。

それにしても、教授がこのように不平等条約改正について新たな視点からのお話をされたのは、 ドイツの主だった公文書館でドイツ語の旧字体で書かれた膨大な外交文書と格闘されて、 丹念に内容を分析するという地道な努力があるからこそ。講演では、旧字体で書かれた公文書のA4コピー1枚と旧字体のアルファベットの表を頂きましたが、 1枚読むだけでも大変です。

教授は冒頭、2012年にベルリン自由大学の夏学期に半年間講義して以来、 すっかりすがすがしいドイツの夏が気に入り、 夏になると在独史料の調査のため訪独されているとお話されていましたが、 私も湿気のないドイツの夏を思い出して久しぶりにドイツに行ってみたくなりました。



五百旗頭 薫氏


講演会場


講演会終了後の五百旗頭薫氏を囲んでの懇親会と望年会2018が開催されました
講演会の続きの話、新入会員挨拶、木原理事率いるSWZの仲間との歌、 鬼久保理事の三角ヴァイオリン演奏等愉快な時間を過ごし、オクトーバーフェストの際の傘の取り違えもめでたく解決! 2017年望年会は写真のように皆さん良い笑顔で終了!



五百旗頭氏と山口氏

 



  

  

  




Copyright(C) 2017- 湘南日独協会 All Rights Reserved.

 

.