3月講演会「ドイツの報道に見る福島原発事故とドイツのエネルギー政策」に参加して

会員 荘林麻美子



川口マーン恵美氏と荘林麻美子氏


 福島の原発事故をSuper-GAU(原子力発電所で予想される最大事故)と認識したドイツはこれをどう報道したのか、ドイツがエネルギー政策においてその後の数ヶ月間で脱原発へと転換しえた背景には何があったのか。ドイツ在住の川口マーン恵美さんから貴重なお話をうかがい、その明解なお話しぶりにたちまち惹きこまれていきました。
 まずドイツにおける報道のあり方について次の2点が挙げられました。「死の恐怖に包まれた東京」という新聞の見出し、花粉症でマスクをしている日本人男性の写真の掲載、映像にはチェルノブイリの事故のものを入れ込む等、人々の恐怖を煽る過剰報道であったこと、他方ドイツの報道が日本のそれよりも正しい情報提供もしていたということです。次に「ドイツの脱原発が唐突であったか」について、答えはNo。反原発の動きの背景には過去40年の長い道のりがあるということです。自然保護運動家(緑の党の前進)に始まったその活動に学生運動から流れてきた人々が加わり、そこに普通の人々をうまく取り込むことにより国民運動として全国に波及していった歴史があり、これを日本と大きく違う点として指摘されました。激しくデモが行われるのも日本との違いで、代表的な例として、使用済み核燃料の輸送を阻止する為にあの手この手で繰り広げられるデモの様子が紹介されました。川口マーン氏の言葉では「反原発40年の歴史ある国民の意思」だったのです。日本との比較においてドイツで脱原発が進んだ理由は、ドイツではマスコミが大きく取り上げ、国民をうまく取込んだことにあり、さらにチェルノブイリでの経験があります。ここで大きく作用したのがドイツ人の国民性だというのです。それは政治への懐疑心、善悪を考えた議論、環境共生志向、といったものです。ご自身の身近な人々のエピソードを交えて語られたドイツ人像は、「なるほど」と納得する興味深いものでした。
 講演の終盤、日本中の誰もが憂慮する日本のエネルギー政策の行方について話は進みます。脱原発への前提条件として日本とドイツの大きな違いは、日本には「セイフティネット(欧州隣国間で互いに電力の売買が可能)」、「褐炭による火力発電」、がないとうこと。自然エネルギーはその供給の不安定性から火力や天然ガスでのバックアップが不可欠であることは充分認識されており、ドイツでも今多くの課題に直面しています。日本が工業国であることを放棄することや、数世代前の生活に戻ることも非現実的であり、感情のみで反原発に進むわけにもいかない。川口マーン氏は次の2つの言葉を引用しました:「エネルギーがなくなると民主主義は滅ぶ」(曽野綾子)、“Erst kommt das Fressen, dann kommt die Moral”−まずは腹ごしらえ、道徳はそのあと−(Brecht『三文オペラ』)。
 「原発事故を機に今日本人がエネルギーを考え、団結して国を守るときではないでしょうか。」誰もが抱える大きな問いかけに対する深い思いからの言葉で講演を締めくくられました。講演後の同氏との交流会でも質疑応答が活発に続き、直面する問題に思いを傾ける貴重な時間となりましたことに厚く御礼申し上げます。


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