アムゼルの10年

アムゼル代表 西川統


 1998年に湘南に日独協会が誕生するニュースに接してすぐに入会をと考えながら、実務生活の終期に居た私は忙しさにとりまぎれそのままになっていました。
 2003年に隠居生活にはいり、あれやこれやの浮世の義理も果たして、半世紀前に少しだけ齧った合唱をやろうと参加したのが湘南アマデウス合唱団でした。それから5年ほど経って団長の赤羽根さんから日独協会にアムゼルという合唱団があるが入りなさいとのお話があり、それまで忘れるともなく忘れていた日独協会のことを身近なものとして感じるようになりました。喜んで加入させてもらい久しぶりのドイツ語の歌を楽しむことになりました。




西川氏


 すこしばかり自分史を語らせていただきますと、1954年に大阪外国語大学のドイツ語科に入学し、ヘルマン・ボーネル先生の毎回の授業でAlte liebe Gesaengeという小歌集の中からの先生の独唱を聞き、メロディーを覚えるという楽しい授業を受けました。先生はいささかビブラートするバリトンで、いつもアカペラで歌われたのですが、歌う楽しさは十分学生たちのものになりました。
 大学では秋の文化祭は「語劇祭」と称して各語科が3回生を中心に何らかの出し物を上演します。ドイツ語科では2回生の時には「魔弾の射手」の狩人の合唱に狩り出され、衣装をつけて舞台に上がり、足の震えたことを覚えています。勿論このころは上級生の特訓を受けてもなおコール・ユーブンゲンなぞ見たこともなかったころです。
 この頃には秋になると大阪の日独協会がビア・アーベントを開き、たまにはドイツの歌が歌えるということで我々の臨時の「ドイツ民謡合唱団」を招いてくれました。昨今の湘南のオクトーバー・フェストほどの賑やかさはなかったように記憶していますが、参加者もそれなりに多くて楽しい雰囲気のものでした。合唱以外に10人程度のカペレがメインで出演していました。
 アムゼルに入団した当時の団員数は20数人でしたでしょう。すぐ日独協会の10周年記念行事が行われ、結成からの5年の努力を跡付けるため、アムゼルはこれを「結成5周年記念」と位置づけ、それまで歌いこんで来た愛唱歌をご披露したのです。当初からの団員諸氏にとってはそれなりの基礎が出来上がったとの満足感のあるものだったのですが、お聴き頂いたドイツ語達者の日独協会会員の誰それから「今のはドイツ語だったよね?」と好意的?なダメ押しを出されたことをはっきりと覚えています。それからの数年間、ワイマール市民の来訪や毎年の湘南のオクトーバー・フェストへの出演、さらには地域の公民館祭りや病院での患者向けクリスマス行事の一つとしての歌唱と多様な発表の場での経験を積み着実な進歩を見せて来ました。




楽しい合宿の晩


 2009年から2代目の団長を引き受けることになり、それ以来「ふじさわ合唱祭」にも連続で参加し、「ドイツ語で楽しく歌う」ユニークな合唱団として存在を認められるようになりました。初参加の頃の講師の批評と比べますと、この3年で「言葉もはっきりし、音楽性も見違えるほどに『ドイツの歌』らしくなっている」ことを評価していただいています。2011年5月の湘南日独協会主催「日独交流150周年記念『日独音楽家の集い』には前座ではありましたが出演でき、引き続いてのドイツ領事館主催の同上の行事に有栖川記念公園での演奏に招かれるなど発表の場と新しい経験を得ることが出来ました。
 3年前から志賀リンデさんがアルトに加わりました。指揮者梶井智子先生の音楽と歌詞の表現、基本的な読み方と発音についての毎練習ごとの熱心な指導に加えて、リンデさんからの日本式発音の欠点指摘や本物のドイツ語発音の指導と念が入り、団員は歌だけでなく発音についても急速な進歩を見せています。また、その過程でのやりとりが一段と楽しい雰囲気を作り上げています。これらの成果を引っ提げて、結成以来の10年の集大成としてこの5月に大船の鎌倉芸術館小ホールで『アムゼル結成10周年記念コンサート』を開かせていただきました。これは湘南日独協会とアムゼルの共同主催で、「協会創立15周年記念」を併せたものでした。500の席がほぼ満席になり、団員の華やかな衣装と踊り、男声陣の歳に負けない(失礼!)陽気な踊りも加えて聴衆の皆さんにも十分お楽しみいただけたと自負しています。
 団員の中には「歌」にとどまらずピアノは勿論、アルペンホルンやマンドリンなどの楽器演奏に長け、また複数の合唱団に属してそれぞれの特徴を追い、楽しんでいる多くの団員がいます。特筆すべきは「総合音楽」ともいうべきオペラの愛好家の集いを率い、アマチュアながら定期的な上演まで実現している人もいます。この人たちの音楽経験もアムゼルにとっての大きな財産です。ただ一曲を仕上げるだけでなく、その曲の詩情、歌詞の内容、背景にまで立ち入って理解しようという努力と、苦手の発音を少しでも解消しようとする前向きな姿勢が団員のドイツ語のレベル向上にも大きく役立っています。
 今年のオクトーバ−・フェストで「歌で楽しむドイツ語」のメンバーがその歌声をご披露されました。アムゼルは最初から合唱団ですから、演奏方式での違いはありますが、精神において「ドイツ語で楽しく歌う」ことが共通のテーマです。これからのオクトーバー・フェストでは両者の歌声が響き続けることでしょう。ある声楽の専門家から「歌に志して10年勉強してやっと入り口に達した」とのお話を伺ったことがあります。アムゼルもまだまだ技術的な点では勉強中ですが、さらに15周年へ向けて成長を続け、その過程においていろいろな機会をとらえて湘南日独協会の活動の本来的な目的を達成するための大きな力になって行きたいと考えています。皆さんのご鞭撻をお願いして稿をとじます。


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