「小さな木彫りの人形にたどり着くまで〜ドイツ木工遍歴〜ホルツフィグアー制作のお話と作品紹介」に出席して

会員 中村茂子



中村氏


 たった数センチの体、丸い頭に点のような目鼻の小さな木の人形、しかしその小さな人形が一つ、あるいは二つ三つずつ机上に置かれると、忽ち彼ら人形たちの無邪気で愉しい物語が現れる。飼沼氏の講演会では、まず入口にならべられた作品の愛らしさと小ささに驚かされた。何という細やかな作業だろう。材質の木の温かみも好ましい。しかも、これらはすべて飼沼聖子オリジナル作品だというのだから、作者の講演への興味は大いに高まった。
 飼沼氏と木の玩具との出会いは、フライブルクの語学学校留学中に出かけたリューベックのクリスマス市で見た木製のカエルの玩具だった。講演終了後に実際に紹介されたそのカエル玩具は、紐を引くと口を開閉しながら動くユーモラスな姿だ。このカエルと冒頭の愛らしい飼沼氏オリジナル人形との大きな隔たりこそ、飼沼聖子氏が歩んでこられた木の人形制作への長い道のりを象徴している。
 リューベックでカエルの玩具に衝撃的感動を覚えた飼沼氏は、即座に「これを仕事にしたい」と考えたという。ここが飼沼氏の眼目ともいえるところで、「これを買っていこう」でも「趣味で作ってみたい」でもない。カエル玩具の作者の名刺からコンタクトを取りデンマークに近いマルケループ村で3週間の研修にこぎつけた。ドイツの地図で見ればわかるとおり、この村は語学学校のあるフライブルクから遥か遠い。なんと勇敢なことか!
 語学留学が終わり愛知のご実家に戻るやいなや、長野県の木工技術専門学校に入学を決め、入学までの間にもドイツに玩具を見る旅に行く徹底ぶり。木工技術専門学校で基礎を身に着けた飼沼氏は、さらにドイツのエルツ地方グリュンハイニヒェンの木工会社への研修申し込みを書き続け、ついに一カ所で受け入れてもらう。この会社からさらに二つの会社で人形制作を教えてもらったという。この一連の人形作りの「木工遍歴」を笑顔で語る飼沼聖子氏であるが、その熱意と努力には感嘆しかない。しかも、最初の語学留学からこの研修にいたるまで、滞在費のために遮二無二働いて貯金をしたという姿勢には頭が下がる。今や年に一、二回の個展を開き、カルチャースクールでの木工人形のホルツシュニッツエリン(彫刻家)として講師歴も7年目を迎えているという。
 飼沼聖子氏の講演会を聴いて、自ら決めた目標に向かって弛まず努力することの尊さと、打ちこむ事を見つけて邁進する姿の美しさ、そしてそんな彼女を見守っていただろう周囲の人々の温かい眼差しも感じたのだった。




飼沼さんの作品の一部





講演する飼沼氏




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