湘南日独協会会報 Der Wind

 VOL.20 NO.1 通巻116
 発行 2018. 1.14
 更新 2018. 1.20
   

 連絡先

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 ご案内

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  藤沢市鵠沼石上1-1-1
   江ノ電第2ビル7F
 


新年のご挨拶



会長 松野 義明
2018年 1月 1日


新年明けましておめでとうございます。2018年も皆様にとりまして実り豊かな年となりますよう心から祈念しております。

今年は、湘南日独協会も、設立20周年という特別な年を迎えます。 ほぼ1年間をかけて、いろいろな記念行事を行う計画をしております。 まず、2月には、ドイツの現代主義の建築家として知られるBruno Tautが残した日本に唯一現存し、 建築物の重要文化財となっております旧日向邸別荘の見学会を行います。 5月には、設立15周年を迎えるアムゼル合唱団の演奏を中心とした記念音楽会、9月には、 日独文化の相互理解を更に深めるための講演会や、生活文化が真正面からぶつかり会い、 やがて融合していく日独国際結婚カップルの座談会、ドイツ料理講習会、 ドイツワイン試飲会などさまざまな楽しい催しを計画しております。 また、未だ確定には至っておりませんが、昨年、ヴァイマール独日協会会長を辞任された、 Ingrid Bauhausさんが11月頃、生け花のお弟子さんを連れて来日することになっておりますが、 その機会に、湘南地区の生け花グループとそれぞれの作品の共同展示会を催す企画も考えられております。 生け花という表現形式に現れる日独の感性の相乗効果の素晴らしさを皆様に満喫して頂く絶好の機会であると考えております。

当協会も会員の皆様のご理解とご協力により、20年の長きにわたりまして、 様々な活動を継続的に行い、おかげさまで相当の成果を上げて参った次第でございます。 今後とも当協会の更なる発展のために忌憚ないご指導ご鞭撻をお願い申し上げて、 新年のご挨拶とさせていただきます。




会員の皆様へのお願い

投稿のお願い
会員の皆さんの日頃のご活躍を会報でお知らせしたいと思います。 演奏会・展覧会・発表会・講演会等の予定をお知らせ下さい。 会報は原則奇数月の第2日曜日発行予定です。 前月の中旬までにメール・郵便のいずれでも結構です。 お待ちしています。

皆様へ、ご協力お手伝いのお願い
隔月発行の会報Der Windの発送(奇数月第2日曜日午前10時〜)、国際交流会そしてオクトーバーフェスト、 来年の記念行事等へのお手伝いを是非お願いいたしたく、皆様からのご連絡をお待ちしております。 皆様とご一緒にさらに楽しい会にしてゆきたいと願っております。

年会費についてのお尋ねとお願い
平成29年度の会費を振り込み頂いた方でお名前の記載がない方が居られます。 会の方へご連絡いただきたくお願いします。 また、まだお振り込み頂いていない方は早めにお願いいたします。



20周年記念行事のお知らせ

本年2018年は、湘南日独協会・創立20周年にあたりますが、この節目を単なるお祭りではなく、 市民の視点から「日独交流の今後」を考える機会として捉えるべく、下記のような行事を計画しております。

つきましては、会員皆様方の積極的なご参加、ご協力をお願い申し上げます。その中から、協会活動のより 一層の充実に結びつくご提案など頂ければと関係者一同、期待しております。

尚、行事概要は現時点での概要であり、今後変更の可能性もありますので、ご承知おき下さい。

時期 行事 会場
2/25 (日) 熱海日帰り旅行:Bruno Tautの建築を訪ねて     
5/18 (金) 湘南日独協会20周年、アムゼル合唱団15周年記念音楽会 鎌倉芸術館
9/7 (金) 講演会 ミナパーク
9/8 (土) 在日ドイツ人との座談会
講演会(お話しと歌)
ミナパーク
9/9 (日) 講演会
ドイツワイン説明・試飲会
ミナパーク
未定 ドイツ料理を楽しむ会 未定
未定 日独生花交流会 未定



ワイマール独日協会会長ご夫妻が来訪

Inglid Bauhausさんの後任のDr. Peter Kaeckell会長と奥様で理事の制野(セイノ ) かおり 様(ご実家は神奈川県大和)が年末年始を日本に滞在し、 その間湘南日独協会を訪問したいとの希望あり、1月7日藤沢で松野会長他の数名の理事と懇談いたしました。

Kaeckellご夫妻は2014年のワイマール独日協会の日本訪問団にも参加され会員の皆様ともお知り合いです。 懇談はこの会報の発行前のことでありますが、印刷の日数のため懇談の内容等は次号に掲載いたすことになります。 ご了解ください。なお、Bauhaus前会長は20周年記念行事の一つ、「日独生花交流会」開催時に来訪の予定です。



 これまでの掲載記事
   (寄稿など)


  劇場便り
  マインツから
  Deutsche Witze
  私とドイツ
  会員掲示板(お知らせなど)
  これまでの協会主催イベントについて:イベント情報
  皆様から寄せられた岩崎先生への追悼文



 活動案内


  

_2008年活動_ _2009年活動_
_2010年活動_ _2011年活動_ _2012年活動_ _2013年活動_ _2014年活動_
_2015年活動_ 2016年度活動 2017年度活動



 関連協会



 日独協会(JDG)

 〒160-0016 東京都新宿区信濃町18番地マヤ信濃町2番館
 受付時間:月〜金 10:00〜18:00
 TEL: 03-5368-2326 FAX: 03-5368-2065


 横浜日独協会(JDGY)

 〒223-0058 横浜市港北区新吉田東2-2-1-913
(事務局:能登)045-633-8717


point mark 第37回
Schwatzerei am Stammtisch
日時  2月 6日(火) 15:00〜17:00
会場 藤沢商工会議所ミナパーク 5階
会費 1,000円



point mark 第56回
Singen wir zusammen
歌で楽しむドイツ語
日時  2月16日(金) 15:00〜16:30
会場 藤沢商工会議所ミナパーク 5階
会費 1,000円

テーマ

問合せ・申込み 電話またはメールで
0466-28-9150(木原) mail icon

※詳細はこちらをご覧ください。
※これまでに扱った曲目についてはこちらをご覧ください。


point mark 2月例会 協会創立20周年記念見学会

 ブルーノ・タウトが設計した日本にある唯一つの建築物、熱海にある「旧日向邸」の見学会です

日時  2月25日 (日)
日程 JR熱海駅改札出口前集合
      09:30 集合 10時見学
      10:30 集合 11時見学
      13:00 昼食会
      16:00頃 現地解散

多く参加希望の方がおられましたが定員の関係でお断りした方々がおられます。
今後機会を作りたいと考えておりますのでご了承ください。


point mark 第38回
Schwatzerei am Stammtisch
日時  3月 9日(金) 15:00〜17:00
会場 藤沢商工会議所ミナパーク 5階
会費 1,000円



point mark 第57回
Singen wir zusammen
歌で楽しむドイツ語
日時  3月18日(日) 15:00〜16:30
会場 藤沢商工会議所ミナパーク 5階
会費 1,000円



point mark 3月例会 講演会
「ブラジル日系人の今」
 講師は元JETROのブラジル駐在員、帰国後も幾度か同国を訪問しています。ドイツ人移民の動向も織り込み、日系人の現況をお話し頂きます。
講師 中澤 夏樹氏 (会員)

日時  3月25日 (日) 14:30〜16:00
会場 湘南アカデミア 7階
会費 1,000円
懇親会 未定


point mark 第39回
Schwatzerei am Stammtisch
日時  4月10日(火) 15:00〜17:00
会場 藤沢商工会議所ミナパーク 5階
会費 1,000円



point mark 年次総会

日時  4月29日(日)

 詳細は追ってお知らせします



point mark 湘南日独協会創立20周年・合唱団アムゼル15周年記念音楽会

日時  5月18日(日)

 詳細は追ってお知らせします



開催イベントについてのお知らせ







寄稿



11月例会報告
「ドイツをめぐる最近の情勢」

講師 前駐独大使 中根 猛氏



会員  昔農 英夫

講演の概要

後を絶たない国際紛争、テロや難民問題など国際情勢はまさに激動の様相を呈している。 EUの中心的 国家として堅調な経済を後ろ盾に国際的発言力を増しているドイツをめぐる内外情勢について前駐独大使である中根 猛氏の 時宜を得た講演を拝聴した。講演では戦後ドイツ現代史に立脚した現状分析と、 将来課題について解説と見解が述べられた。以下、講演の概要をご紹介する。 当日会場で配布された資料を当協会のホームページからご覧いただけます。詳しい内容についてはそちらも参照願います。

※講演資料はこちらからご覧頂けます。

なお講演に先立ち、2013年の湘南日独協会創立15周年記念ドイツ旅行の際に、 提携関係にあるワイマール独日協会と一緒に現地で催された祝賀行事に遠路ベルリンからお越しいただき、 日独友好の草の根交流に祝意を寄せて下さったことが紹介されました。

1)堅調なドイツ経済

戦後復興後、独経済は東西ドイツ統合に伴う財政負担,手厚い社会保障, 労働規制等に起因する競争力低下で長く停滞に苦しんだ。 打開の端緒は前政権が着手した労働市場と社会保障制度改革で、この流れはメルケル政権に引き継がれ、 EUの通貨制度や統一市場の恩恵を受け、目下独経済は堅調に推移している。 一方、改革・規制緩和の副作用で、非正規雇用や所得格差の拡大などが最近の独政治情勢にも影響していることが指摘された。

2)政治大国化するドイツ

EU加盟南欧諸国の債務危機対応では、ドイツの求める構造改革と財政規律の強化が色濃く反映され、 この過程を通してドイツは政治的発言力を強めた。 また、欧州の安全保障や難民問題への対応でも、米トランプ政権の誕生もあり、 英国離脱後を見据えたEUのリーダーとしてますますその国際的プレゼンスを高めている。

3)メルケル政権を揺るがす難民問題

独の政治状況理解のために、小党乱立を防ぐ選挙制度や政策合意に基づく政党連立により政権が 安定的に運営されてきた歴史的経緯が紹介された。戦後ドイツでは移民や難民受入に一貫して寛容な政策がとられてきた。 しかし、近年の受入難民の急増に伴う社会への統合問題、更には外国人によるテロの頻発が引き金となり、 難民政策の転換要求が高まりや格差拡大などの不満が国民政党に代わる声の受け皿として AfD(ドイツのための選択肢)などの躍進に繋がっている。 9月の連邦議会選挙では、メルケル首相の与党が勝利したものの、 議席の大幅減少で首相の求心力が低下する一方、AfDが第3党に躍進した。 連立交渉は難航し12月末の現在も4期目の政権発足には至っていない。 ドイツの政治的動向はEU、欧州、ひいては世界の動向に大きく係ることから注視してゆく必要性を改めて指摘された。


講演を聴いて感じたこと

多極化、グローバル化する世界で、ある地域の変化が、玉突き的に他の地域に影響し、 パワーバランスや経済に変化をもたらすことは日々の報道を通じて認識させられるところです。 現実の国際関係は、天文学的な数にのぼる世界の人々の日々の営みや考え、 それらの相互作用の総計が反映された結果と捉えると、 草の根の国際交流団体の活動などはたとえ大海の一滴に過ぎずとも、 関係に影響していることは間違いありません。 我々の草の根レベルの国際理解の活動も、 ひいては問題の多い日本と近隣諸国との関係改善にもつながるかも知れないと改めて思いました。 狭くなる一方の世界の出来事に関心を持つことの大切さを思い起こさせてくれる講演会でした。


中根前大使を囲んでの懇親会風景

  




12月例会  講演会
「日本の不平等条約改正史におけるドイツの役割
 −在独日本関係史料調査の近況を踏まえて− 」

講師 五百旗頭 薫氏 東大大学院教授



会員  山口 泰彦

12月17日(日)に開催された例会では、日本政治外交史が専門の東京大学大学院法学政治学研究科の五百旗頭 薫教授にご講演いただきました。

不平等条約改正というと、中学や高校時代、試験のために年号や事件を丸暗記した記憶があるだけでしたが、 今回の講演では、条約改正に向けてドイツが重要な役割を果たしたことをはじめ、新たな視点を披露していただき、 とても興味深く、刺激的なお話をおうかがいすることができました。

まずはじめに、不平等条約の何が問題だったのか。 関税自主権の喪失、領事裁判権までは学校の教科書でも出てくるのですが、 教授が研究の過程で発見されたのが、「行政権の侵害」。 これは条約には記載されていないことで、領事は日本の行政規則に拠って裁判を行うのですが、 その行政規則を決める際にも欧米諸国の公使・領事と事前に協議しなくてはならず、交渉がまとまらないこともあった、とのことです。

続いて行政権の拡大に伴い発生する問題が、機能肥大化による領事の機能不全。

領事機能が司法や警察だけでなく、衛生や営業規制といった行政機能にまで肥大化してくると人員が不足し、 機能不全に陥るようになりました。 今まで西洋の国は非西洋の国に領事という西洋のミニチュアを植え込んでいけばよかったのですが、 それだけでは足りず、中国のような租界をつくるか、国全体を植民地化するか、あるいは条約改正をするか、 3つの選択肢のどれかをとることになりました。

「ここが世界史的な分岐点」と教授。 この機会をとらえて行政権回復要求として条約改正交渉を始めたのが日本でした。 これに対して西洋側で最初にほころびが出たのがアメリカ、ドイツといった連邦制の国でした。 その背景には「アメリカは州ごとに行政規則が異なるので、日本との事前協議の際、『これがアメリカの規則だ。』 と提示できなかったのでは。ドイツもプロイセン規則優先の原則があったが、絶対的ではなかった。」との事情があったとのことです。

「不平等条約体制の弱い環=連邦国家」という教授の仮説は、アメリカについては検証されたが、 ドイツは現在検証中、とのことでしたので、検証された暁にはぜひ湘南日独協会の講演会でお話をおうかがいしたいと思います。

一方、日本国内の状況の変化についてもお話をいただきました。概要は次のとおりです。

明治政府の最大の外交課題であった条約改正に臨んだ外務省は、当初、 寺島宗則外務卿はじめ主要ポストは薩摩出身者で占められていて、アメリカと交渉し、 協定の締結まで進みましたが、欧州諸国が賛成しなかったため白紙になり、欧州諸国を説得しなかったアメリカ政府に日本政府は失望しました。

また、1877年の西南戦争で財政がひっ迫し、 大蔵省内で財源確保のため「まずは関税引上げを急ぐべき」との声が大きくなり、 関税自主権回復を主張する寺島外務卿が更迭され、長州出身の井上馨が外務卿に就任し、 関税引上げ路線に転換しました(=条約の関税率の改正だけで済む)。これ以降、外務省は長州出身者中心になっていきます。

この現実路線転換を評価したドイツはここから日本に急接近して、日本がイギリスや欧州諸国と交渉する際に助言をするようになりました。

ここで教授は、パックスブリタニカの時代だからといってイギリスだけを見るのでなく、 二番手のアメリカ、三番手のドイツの関係を見ながら日本外交を見ていく視点が必要では、世界史を日本から見ていくことが必要では、とお話されました。

それにしても、教授がこのように不平等条約改正について新たな視点からのお話をされたのは、 ドイツの主だった公文書館でドイツ語の旧字体で書かれた膨大な外交文書と格闘されて、 丹念に内容を分析するという地道な努力があるからこそ。講演では、旧字体で書かれた公文書のA4コピー1枚と旧字体のアルファベットの表を頂きましたが、 1枚読むだけでも大変です。

教授は冒頭、2012年にベルリン自由大学の夏学期に半年間講義して以来、 すっかりすがすがしいドイツの夏が気に入り、 夏になると在独史料の調査のため訪独されているとお話されていましたが、 私も湿気のないドイツの夏を思い出して久しぶりにドイツに行ってみたくなりました。



五百旗頭 薫氏


講演会場


講演会終了後の五百旗頭薫氏を囲んでの懇親会と望年会2018が開催されました
講演会の続きの話、新入会員挨拶、木原理事率いるSWZの仲間との歌、 鬼久保理事の三角ヴァイオリン演奏等愉快な時間を過ごし、オクトーバーフェストの際の傘の取り違えもめでたく解決! 2017年望年会は写真のように皆さん良い笑顔で終了!



五百旗頭氏と山口氏

 



  

  

  



劇場だより その9

これまでの劇場だよりは、こちら からご覧頂けます

ブレーマーハーフェン 志賀 トニオ氏


Halleの劇場


Neustrelitzの劇場

今年も残り数日。ブレーマーハーフェン歌劇場では11月に”リゴレット”、 クリスマスにベートーベン唯一のオペラ、”フィデリオ”のプレミエがありました。 そしてそれぞれの曲で重要な役割を担うのが合唱です。 その合唱団には今シーズンからキューバ人の "Chordirektor"(合唱監督)が就任しました。 国を出る事すら難しい環境下、ピアノの腕前を認められてザルツブルクに留学し、 Weimarの "Chorassistent"(合唱アシスタント)の職を経てここに来ました。 私は以前そのWeimarの職場で同じ上司(合唱監督)の元で仕事をしたので、 彼の仕事ぶりに親近感を感じます。 そこで今回は、私がドイツでプロの音楽家としてキャリアを開始した時のエピソードと、 歌劇場における合唱団の役割について、2回に分けてお話ししたいと思います。

10年程前、ロストック音楽大学の指揮科に在籍していた私は、就職先を探し始めていました。 ドイツで指揮者になる為の王道は、劇場の "Solorepetitor mit Dirigierverpflichtung"(コレペティトーア兼指揮者) と呼ばれるポジションを獲得する事でした。 これは所謂ドイツの伝統的な叩き上げの指揮者が最初に経験しなければならない職です。 ですから必然的に競争率が高く、獲得するのが難しいポジションです。 その職を得る為の最初の難関は、募集が出た時にいち早くその情報をキャッチし、 応募した後、"招待状"を受け取る事でした。 この"招待状"を受け取れなければオーディションを受ける事ができません。 ドイツの歌劇場では、この”招待状”システムが非常に重要で且つ難しいポイントです。 私の場合、日本の音大を卒業し、ドイツではロストックに2年在籍しただけでした。 ですからドイツの大きな町の音大に4年以上在籍していたような他の応募者と比べると経歴で見劣りし、 招待状を受け取る事は容易でないと考えました。そこで私は、まず音楽事務所に所属する事を目指し、 そこを通して応募した方が可能性が高いと判断し、ZAV(Zentrale Auslands und Fachvermittlung) と呼ばれる公立の音楽事務所のオーディションをベルリンまで受けに行きました。 ドイツには私立の音楽事務所も多数ありますが、若手指揮者は、 コンクールの賞歴がある場合を除き、通常このZAVから始め、キャリアアップした後に私立に移行します。 首尾よく合格した私は、早速ZAVの紹介で招待状を受け取る事に成功し、 一つ目の劇場にオーディションを受けに行きました。 それがロストックとベルリンの間に位置するNeustrelitzという小さな町の劇場でした。 小さいけどもおとぎ話に出てくるようにかわいらしく魅力的な劇場で、 オーディションが終わった後にはすぐ側の湖の畔で小一時間程、 達成感と開放感に身を委ねていたのを今でも鮮明に覚えています。 約1週間後に落選したとの通知がありましたが、そのすぐ後にHalleの劇場から招待状が届きます。 Halleはヘンデル生誕の地であり、町も大きくかなり難関なポジションです。 そのオーディションの準備の最中、ZAVから連絡が入り、 Weimarの歌劇場の“Chorassistent”(合唱アシスタント) の席が突然空いたから、当面3か月だけの契約内容だが、受ける気はないかと依頼されました。 オーディション予定日はHalleの次の日。Halle からWeimarは電車で1時間程だから、物理的には両方受験可能だ。 しかしコレペティトーア兼指揮者 のポジションと 合唱アシスタント ではオーディションの内容が全く異なるため、両方をこなすのはなかなか難しい。 しかしWeimarの話に大きなチャンスを感じとった私はその依頼を受け、 Halleを断るのも勿体無いと思い、二兎を追う者は一兎をも得ずとならないように願いながら、 内心ややWeimarの方に重きを置いて準備した。なぜなら合唱アシスタント の受験曲は初めてのものばかり。Halleの方は所謂スタンダードな内容で、 すでにZAVとNeustrelitzのオーディションでこなした内容と大差なかったからである。 結果、私の感が的中し、首尾よくWeimarのChorassistentの職を得る事になる。 人生で初めてプロの音楽家として定収入を得て仕事が出来る事になり、今振り返っても、 まさに私のキャリアの出発点であったと言えるだろう。その後のWeimarでの仕事ぶりについては次回お話ししましょう。



Bayreuther Festspiele 2017を観劇して

会員 中嶋 照夫

世界で一番チケットの入手が困難なオペラとして有名なRichard Wagnerの音楽祭に当選して、 ドイツのバイロイトという小さな町に行って来た。申し込みから10年以上かかる所を3年目で当選。超早い方だ。

演目:ニ-ベルングの指環(Der Ring Des Nibelungen)
指揮:マレク・ヤノフスキ-(Marek Janowski)
演出:フランク・カストルフ(Frank Castorf)
Das Rheingold
序夜 18時00分〜20時25分(休憩なし)
Die Walküre
第1夜 16時00分〜21時35分(休憩2回)
Siegfried
第2夜 16時00分〜21時50分(休憩2回)
Götterdämmerung
第3夜 16時00分〜22時15分(休憩2回)

今年が例年と違うのは、ヨーロッパ地区を襲うテロの脅威があるという事だ。Bayreuther Festspiele GmbHの公式事前発表に因ると、 祝祭劇場周辺は人と車の進入を数百mから規制してるとの事。持ち物も規制。(バック、飲み物、クッション等はNG) イブニングバックしか認めない。今年は特に厳しかったようだ。建物劇場に入るにはチケットを見せ、更にホール入場時にチケットのバーコードで情報をチェックする。 音楽祭には当選した世界46ヶ国から6万人ともいわれるワグネリアンが集まって4部作10幕(35場)+序幕に聞き惚れた。


バイロイト詣で


夜も綺麗だ!

毎日演目開始前15分前に数秒バルコニーで演奏があり、また10分前に予鈴、更に5分前にまた予鈴がある。 会場はコロシアム型なので1人が遅れて入場席に着こうとするとその列全員が席を立つような不便な造りだ。 (会場は2000人弱)定刻になると劇場内側から鍵がかけられ暗くなり、即劇が始まる。

Wagnerは音響効果を最高に保つため、エアコン設備は造らず、 座席はどこからでも見えるように急斜面になっていて、 オーケストラピットは天蓋に覆われて、指揮者すら見えない。 舞台に集中させるWagnerの工夫がある。 オペラには、演出、舞台装置、衣装、演技、歌手の声等による総合芸術とよく言われるが、 演出の占める割合が、その公演の大部分の印象を決めると思う。筋書は常に不変、 音楽も不変のはずなので演出家がどう読み替えて表現するかで良し悪しが決まる。 近年、ちまたでは演出の評判が悪かった。観客に伝わらず、難解であると。 音楽はどの場面も素晴らしく、100以上ある短い施律の断片、 つまり示導動機(Leitmotiv)が何度も何度も場を盛上げる。 音楽でも次の場面を知らせてくれる。BRÜNNHILDE役のCATHERINE FOSTER、SIEGLINDE役の CAMILLA NYLUND等々の哀愁を込めた切ない程までに精一杯歌い上げるソプラノ歌手に心が動いた。 特にDie Walküre第3幕1場で子供が胎内にいることに感激したSIEGLINDEが「愛の救済の動機」のLeitmotivが最も感動的な旋律だった。 『O hehrstes Wunder ! Herrlichste Maid !』 (こよなく貴い奇蹟よ!輝かしい乙女よ!)。 他にも印象的な旋律はある。そして終わればカーテンコールの大歓声でブラボーの嵐、 いつ終わるとも知れないカーテンコール(最大40分位)。 日本を出る時に心配してた眠気と暑さとトイレと木製椅子の居心地の悪さは忘れる程だった。 ようやく長年の夢が叶い、一息つかぬ間、素晴らしさに興奮冷めやらず、 Bayreuther Festspiele 2018の演目「Parsifal(舞台神聖祝典劇)」「Tristan und Isolde」等と宿泊ホテルを申し込んだ。 来年またこの感動が味わえるのを願っている。


開演前のファンファーレ


カーテンコール



湘南日独協会創立20周年記念
インターネットのドイツ語


岩ア 英二郎

岩ア英二郎先生は2017年7月逝去されました。20周年記念には「若者へのドイツ語の勧め」のご寄稿を約束頂いておりましたが叶わず、 2012年1月号ご寄稿を再度掲載しました。


「ルゥー不要!デミグラスソース不要!長時間の煮込みも不要!おうちにある材料で超簡単に出来る、 一押しの一品です」 これはたまたまインターネットで拾ったもので、 どうやらライスカレーのコマーシャルらしいが、 「超簡単に」や「一押し」は、明治や大正はもちろん、 昭和初期の人たちとっても読解不能の日本語にちがいない。 「超」について言えば、「超満員」「超一流」のように日本語特有の〈体言〉につけるならまだしも、 「いま超とてもスマホが欲しいんです!」や「当日朝から調整をはじめて、 すぐにグラススキーを乗りこなしてしまうあたりは超さすがでした」 などのように副詞と結びつけたりするのは、ネット言語ならではのことだろう。 「一押し」を「ひとおし」と読む人は正常な言語感覚の持ち主だが、正しく(?) は「イチオシ」と読むらしい。 どうやら「いちばんのお勧め」の意味らしく、「イチオシ番組」「通販イチオシ商品」等々、例を挙げればきりがない。

インターネットに風変わりな表現が氾濫するのはドイツ語でも御同様だが、 ここではその一例として、So Leute gibt es auch. を取り上げてみたい。 直訳すれば「そんな人々も存在する」ということで、たとえば、「あいつにも困ったものだ、平気で嘘をつくんだから」という相手の言葉を受けて、 Tja, so Leute gibt es auch.(でもねえ、そんな連中もいるのさ)と答えたりするわけだが、 正しくは Solche Leute gibt es auch. とすべきであって、Ist er wirklich krank? - So habe ich gehört. (あの人、ほんとに病気なの?― そう聞いたけど)やSei nicht so böse!(そんなに怒るな)などに見られるような副詞soが、 直接 Leute のような名詞を修飾することはあり得ない。厳密に言えば、これは誤用である。 いささか専門的になって恐縮だが、おおまかに説明しよう。so が「そのよう」「それほど」を意味することは、 上の例文でも明らかだが、「そのような人間」、「そのような考え」、「そのようなこと」のようにsoが名詞に直接かかる場合には、 so ein Mensch、so ein Gedanke. so eine Sache のように、かならず不定冠詞を介さねばならず、 so Mensch、so Gedanke、so Sache のような表現はあり得ない。 それでは複数形はどうなのか、ということになるが、その場合にも so Menschen、so Gedanken, so Sachen とするわけにはいかないので、指示代名詞(正確には指示形容詞)solch の助けを借りて、 solche Menschen、solche Gedanken、solche Sachen とするのが通例である。 十八世紀あたりから今日までの文芸作品にも、筆者の知るかぎり、so Menschen、so Sachen 的な具体例は、 皆無とは言わないまでも、ほとんどないに等しいし、現に、ドイツ語圏の native speaker に so ein Mensch の複数形は? と尋ねてごらんになれば、異口同音に solche Menschen という答えが返ってくるはずである。

上に So Leute gibt es auch. という例を挙げたが、それでは趣向を変えて、So Dumme gibt es auch. の場合ははどうだろうか。 両者は一見よく似てはいるが、前者が厳密には非文(文法的に正しくない文、ungrammatical sentence)であるのに反して、 後者は文法的にも非の打ち所のない文、という大きな違いがある。それはなぜか。文頭の So Dumme は、実は so dumm(それほど愚か、そんなばか) という形容詞が名詞化したもので、So Dumme gibt es auch. の文意は「それほどの愚か者も存在する」であり、 Ja, so Dumme gibt es auch bei uns in der Klasse. なら、「ああ、おれたちのクラスにはそんなばかな連中もいるのさ」ということになる。 つまりこの場合の so は、冒頭のSo Leute gibt es auch. に見られるような指示形容詞ではなく、 Wir müssen allmählich nach Hause. - Ist es schon so spät?(そろそろ帰らなくては ― もうそんなに遅いのかい?)、 Ich habe so Hunger! (すごく腹がへったな)などのように、程度の高さを示す副詞だからである。

ネット上に跋扈するこの種の実例をいくつかお目にかけることにしよう。Ich verstehe so Menschen wie dich nicht. (ぼくにはきみみたいな人間が理解できないね)/ Ich wünschte, es gäbe mehr so Lehrer wie Dich. (きみみたいな教師がもっといればいいのに)/ Auf so Bücher halt ich gar nichts. (そんな本には全然興味ないね)/ Ich suche so Bücher oder Texte auf Englisch, die einem Niveau der 9. /10. Klasse Gymnasium entsprechen. Kann mir da jemand etwas empfehlen? (ギムナジウムの9学年から10学年にかけての学力に相当する英語の本またはテキストを探しています。どなたか教えていただけないでしょうか?) / Dass so Verbrecher wie Hitler überhaupt an die Macht kommen konnten, war auch eine Mitschuld der Siegermächte des 1.WK. (ヒトラーのような犯罪者がそもそも政権を掌握できたということは、第一次世界大戦の戦勝国側にも共同責任があったのだ)。

それではそろそろ紙数も尽きたので、最後にso が不定冠詞を介さずに単数名詞と結びついている例(むろん誤用) を一つだけお目にかけよう。 So Musik wie die von Michael Jackson zum Beispiel, der Mann hat ein deprimierendes Leben, aber das merkt man seiner Musik nicht an. (たとえばマイケル・ジャクソンの作るような音楽だけど、 あの男はわれわれの気持を滅入らせるような暗い生活を送っているのに、 彼の音楽にはそれが感じられないんだよ)。英国出身の歌手ブレット・アンダーソン(Brett Anderson) がライン河畔の都市ケルンでドイツの雑誌記者と対談したさいのジャクソン批判の言葉だから、 英語での対話の独訳と思われるが、ということは、so Musik のような表現が、 ドイツのジャーナリズムの世界でもすでにごくふつうに使われているということだろう。(了)


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