梶井龍太郎氏の講演会「ドイツの劇場と日本のオペラ事情」に出席して

会員 大久保明



梶井氏


 東ドイツの時代から統一ドイツ成立後までドイツのオペラハウスでテノール歌手として活躍され、帰国後は演奏のみならず指導者として、さらに現在は東海大学芸術学科教授として幅広い活動をしておられる、梶井先生のご講演は大変興味深いまた刺激的な内容でした。

 先生の研究テーマの一つは劇場に関する研究(劇場学)があり欧米、特にドイツの劇場の形態と運営を学び、日本の劇場の現状を考察し両者を比較することで日本の劇場運営に有効な提案をする事を目標としている。

 ドイツは100以上の劇場を持つ世界一の劇場大国(次点はアメリカ40)で、劇場にはSからCまでのランクがある。アメリカ等のスポンサー、広告主体の運営ではなく、自冶体の運営による公共劇場、公的助成金で運営される民間劇場があり、所謂税金(補助金)による運営であること、具体的にはチケット1枚に約120ユーロ(約15,000円)の補助があり運営されているとのことでした。

 一方日本ではドイツの劇場(オペラ、バレー、演劇が可能)と同様な形態の劇場が少なく比較するのは難しいが、それに近い新国立劇場(東京初台)を考えると、多額の事業費が掛けられているもののその1/3程が管理費、外国人キャスト主体による年間3〜5演目に疑問を感じざるを得ない状況あり、ドイツのオペラハウスとは比較出来ない。

 ドイツ人は町を作る時、先ず病院、次に学校そして劇場を建てると言われるほど、劇場が市民生活に重要な役割を持っている。文化、教育、社交の中心としてドイツでは都市の顔となっている。そのためには、観客動員の施策が進められ、若者の観客が増加している(イタリアでは観客の老齢化が顕著と言う)。

 オペラの演出でも大きく変化してきている。一時代前はオペラ歌手と言えば声が重視され、太った歌手が若者の恋物語を演じていたが、近年は俳優並みの美貌と容姿で(勿論美声)、リアルな演技をしながら歌うようになっている。つまり、オペラも演劇も気取ったものではなくエンターテイメントとなってきている(この現況がDVDによる紹介あり)。

 先の、ワールドカップではドイツが優勝したがこの勝因の一つは常に新たなる挑戦にあるようだ、オペラや演劇の世界も同様に思われる。もっと日本はドイツへ目を向ける必要があるようだ。

 ドイツの歌劇場の話の中には、先生と智子先生のドイツの歌劇場での舞台写真も公開頂き嬉しく思いました。旧東ドイツ(共産国)と資本主義国ドイツ(あるいは旧西ドイツ)との違い、さらに1989のベルリンの壁の崩壊による大きな環境の変化を現地で経験から語られました。

 講演終わり近く、現在の日本の大学ではドイツ語のみならず、ヨーロッパの言語を履修する学生は残念ながら大きく減少している現状を話されました。

 なお、会場には梶井先生とは旧知の仲の志賀トニオ氏(会員志賀さんご夫妻の二男)が参加され、現在ブレーマーハーフェン歌劇場で指揮者・コレペティトールとして活躍しておられることから、最新の情報も提供されました。トニオさんは、懇親会へも参加され多くの皆さんと話が弾みました。来年7月休暇を日本で過ごされることになれば、湘南日独協会でのご講演を快諾して頂きました。

 ドイツ人の日常の生活に深く関わっているドイツのオペラと日本でのオペラを単純に比較は出来ないが、文化・芸術政策が問われているのではないかと思う。箱物行政と揶揄される現状の改善の為には様々な意識改革が必要であることを再認識させられた講演会でした。




梶井氏と志賀トニオ氏




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