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5月例会
”欧州大学制度改革の現状―ドイツを中心として”の講演を聞いて




会員 大石 則忠氏

木戸裕氏による表題の講演を聴講した。講師は、千葉日独協会理事で、傍ら前国立国会図書館専門委員、東北大学、上智大学、国際基督教大学、立教大学、高崎経済大学等で非常勤講師を務めて居られ、比較教育学がご専門である。

明治維新後、大正、昭和の初期には多くの留学生が欧米諸国(ドイツ、フランス、英国、並びにアメリカ等)へ渡り医学、法学、工学、文化芸術分野に於いて著名な人物を輩出した。第二次大戦後はアメリカへの留学生比率が急増したが平成に入って以降留学希望者は減少傾向にあると言われている。世界の潮流変化に起因するであろうが、留学先として米国か欧州のどの国を選ぶか選択肢に苦慮される方も多いのではないか?ドイツを中心に欧州の大学制度が如何なる状況にあるか、大変興味のあるトピックである。

講演要旨

ドイツの大学入学は全ドイツ共通でアビトウアーと呼ばれる試験を高等学校で資格取得すればドイツ国内のどの大学でもいつでも入学できた。又授業料も無料であった。大学での在校期間も制限はなかった。大学では学内の卒業試験は無く国家資格のデイプロマ試験に合格すれば卒業(ドイツでは退学届)となる。ちなみに大学教授も諸々の条件を満たした上で、国家資格試験に合格が必要である。(日本の大学ごとに独自で教授指名する制度と異なる)斯様な国家試験に一度は失敗しても二度目の受験はできる。然し三度目の試験は許されない。

欧州での制度変化の潮流

近年(1970年代)に至ってドイツのみならず欧州各国での大学への進学希望者が日本同様に急増している。斯様な状況下でドイツの大学は定員オーバーの状況に陥り、特に医学、法律、経営、技術系等の学部で顕著である。従って1973年にドイツの全大学の中央学籍配分機関(ZVS)がドルムント市設立されドイツ全体を一括しての管理をはじめた。



木戸講師

(但しアビトゥアー保持者が待機させられるだけで、進学権利が無く成る訳ではない。6年半以内には入学できる保証がされている。)ドイツの大学間のレベル差は、従来は話題にはならなかった。しかし昨今では大学間の研究成果、教育レベルの差に対する評価が話題となっている。欧州地域47か国が“ボローニャ・プロセス”呼ばれる高等教育圏での比較可能な学位システムの確立、高等教育の質の保障等を狙い、1999年には29か国が“ボローニャ宣言”を纏めベンチマークを設定した。各国はその目標に向かって努力を行っている。更に加えて、バチェラー、マスター、ドクターは米国におけるように学校ごとの資格に変化している。元来大学はフンボルトの理念である『包括的な教育』の場、即ち人間形成の最高の場であった。しかるに昨今は巷の論理に押し流されているとの指摘もされた。即ちエリート大学からマス化する大学と言われる様に変化しつつある。又大学が学校化しているとも表現されている。大学が社会から評価される時代となり、即ち大学の費用対効果が厳しく問われるようになった。他方、各国とも大学の研究費への公的支出の削減とそれに伴う影響が厳しいものになっている。そのような背景からも大学制度改革が迫られている。ドイツでは大学間の評価の差はかってはなかったのは前記の通りである。しかるに昨今は、差が現れ“エクセレンスイニシャテイヴ協定といわれるルールの下で大学の評価が行われている。即ちエリート大学として三大学(カールスルーエ工大、ミュンヘン大、ミュンヘン工大)が選ばれた。さらに2007年にはアーヘン工大、ベルリン自由大、フライブルグ大、ゲッチンゲン大、ハイデルベルグ大、コンスタンツ大の六大学が加えられた如く差別化が既に試みはじめられている。

講演を聞いての感想

私見でありますが、昭和初期育ちの筆者は、日本もドイツの高等教育制度に強い影響を受け、制度的にも踏襲する点が多々あったと思っています。即ち人格形成の場としての大学の存在は大きかった。昨今の日本の大学は専門分野の研究並びに、教育ではレベルが高いのは疑う余地はないが、人間形成については不十分な気がする。日本の政、官、民の何れでも最高学府出身のはずのトップによる不祥事が基で、種々組織体の信頼性の失墜は大きな問題に成っている。反省すべき点があるのではないか。

ドイツを中心に欧州諸国はボローニャ・プロセスと称する大学制度改革が検討されている。 是非はともあれ、アメリカ的なシステムに近付きつつあるともいわれて居る。 かつてはドイツの大学の設立理念は自由な人間形成の場としてであったはずが。今や大学が学校化してしまっていると一部の識者からの批判もあるとのことである。大学はフンボルトの提唱した『包括的な教育』という大学創設以来の理念が見失われないようにありたいものである。

   
講師を囲んでの懇親会




6月例会
「ようこそドイツへ Willkommen」講演会

ドイツ観光局日本事務所西山晃ディレクターによる、2017年のドイツ観光ハイライトの紹介がありました。 「数字で見るドイツ観光のUSP(ユニークセールスポイント)」のクイズもあり、さすが日独協会の会員の皆様、 正解続きで賞品のアンペルマンのキーホルダーやパスポート・ケースなどを獲得していました。 今年はルターの宗教改革500年の記念行事、カッセルでのdokumenta 14、ベルリンでの国際園芸博覧会が特に挙げられました。

講演終了後も質問や相談が多く寄せられドイツへの関心がさらに深まる例会になりました。

  
西山 晃氏                講師を囲み懇親会




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