ベルリンでの越年

会員 寺田雄介(在ベルリン)



 僕がドイツへきてからはや半年が経ちました。マールブルクで2ヶ月の語学研修、それからベルリンで4ヶ月の研究生活。まもなく最初の冬学期も終わりを迎えようとしています。

 みなさんもご存知のように、クリスマスには多くの留学生は祖国へと帰ってしまいます。ドイツ人も例外ではなく、みな生まれ故郷の街へと帰ってしまうので、多くの日本人のように、クリスマスを家族のもとで過ごす習慣を持たない人たちにとって、これらのイベントは必ずしも楽しいものではありません。ところが、年越しとなると状況は一変します。学生たちは再び自分の大学のある街へと戻ってきて、友人と一緒に新年を迎えるのが普通です。街の雰囲気もクリスマスを過ぎたあたりから徐々に変わっていきます。ベルリンに10箇所以上あったクリスマス市も、大晦日になるとその多くは店じまいとなり、その代わりに街のいたるところがイルミネーションで飾られます。ベルリンの年越しで最も人が集まるのはむろんブランデンブルク門の前です。門へと向かうウンターデンリンデンの木々も、このようなお化粧を施されていました。




イルミネーションに飾られたウンターデンリンデン



 写真ではもうすっかり暗いですが、まだ18時頃です。去年ベルリンで越年した友人から、もしブランデンブルク門に行くなら、早めに足を運ぶほうがいい、と強く勧められたからです。と言うのも、この場所で新年を迎えようとする人は毎年100万人以上とか。22時くらいになると広場の周辺にはバリケードがはりめぐらされ、安全面から入場制限をするらしいのです。しかし我々がウンターデンリンデンの突き当たりまで来ると、すでに門の東側にはフェンスが立てられて進入禁止となり、警察官が警備を行っていました。もしかしてもう入れないのかな?と焦りましたが、大晦日のためのイベント会場は門の西側に設営されており、東側からは入場できないとのこと。僕は友人と一緒に門を迂回し、国会議事堂側からブランデンブルク門へと向かいました。




封鎖されたブランデンブルク門の東側



 西側では道路が歩行者天国となっており、越年イベントのためのスペースがすでに確保されていました。こちらにも小さなゲートが作られ、入場するときには手荷物の検査がありました。ペットボトルは持ち込めません。門のすぐ前にはバンド演奏のためのステージ、その左右には「2011」と書かれた垂れ幕と巨大スクリーン、そしてステージの手前からは空に向けて無数の照明が用意されていました。新年までまだ6時間近くあるにもかかわらず、すでにかなりの人が集まってきていることは、写真からもおわかりいただけることと思います。




新年を目前に控えたブランデンブルク門の西側



 人々はみな新年を前に浮かれ騒ぎ、手にはビールを持ち、いたるところで花火を楽しんでいます。ドイツでは年間を通して基本的に小売店で花火を買うことはできません。しかし年末になるとデパートにも小さな商店にも「花火あります」の看板が掛けられ、人々は競って買い漁ります。一人で100ユーロ以上買う人も珍しくありません。しかし花火をし慣れていないのか、マナーという点では日本人に遠く及びません。水のないところでも平気で火をつけますし、遊び終わった花火は雪に差し込むように捨てていきます。ドイツの花火には「人に向けて遊んではいけません」とは書かれていないのでしょうか、平気で僕たちのほうに向けて火花を飛ばしてくる人もいました。




そこら中に捨てられている遊び終わった花火



 しかし、もっとも僕たちを驚かせたものは花火ではありませんでした。ホームで電車を待っていると、突如ドカーン!!と今まで耳にしたことがない類の爆発音が聞こえてくるではないですか。ピストルの発砲音のような、しかしそれよりもはるかに大きな音量で、地響きがするほどでした。午前0時が近づくにつれ、爆発音はより頻繁に聞こえてくるようになりました。はじめはテロかなにかが起こったのかなと思いました。しかし、注意して行き交う人を観察すると、花火と一緒にダイナマイトのようなものを持っている人が目につきました。オレンジ色の水筒のような巨大な爆竹です。おそらく新年まで我慢することができずに、もしくは誤って火をつけては、あちらこちらで爆発させているのです。日本では経験したことのない轟音なので、怖いもの知らずの僕も少なからず恐怖心を覚えました。後から聞いた話によると、毎年この爆竹で怪我をする人が後を絶たないそうなので、実際に危険な代物なのでしょう。

 まるで戦場のような街中をびくびく歩き、無事に家までたどり着いてからは、日本から持ってきたお蕎麦を茹でて、友人と日本流の年越しをしました。ブランデンブルク門前ほどではないですが、2011年になった瞬間には我が家のあるヘルマンプラッツにもたくさんの花火が上がり、自宅の窓からその様子を眺めながら、新年を楽しく迎えることができました。湘南日独協会の皆様はどのように新年をお迎えになりましたでしょうか。『紅白歌合戦』や『ゆく年くる年』をご覧になったのでしょうか。正直に申し上げると僕は紅白を見たことがほとんどないのですが、何人かのドイツ人の友人が、この国民的な番組の存在を僕よりもはるかに詳しく知っていることには驚かされました。




ブランデンブルク門で大晦日を祝う筆者


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